この理由について、豊田章男会長は会見で、2024年問題をはじめとする「物流・商用領域」が現在の自動車業界における大きなテーマになっていることを挙げた。
「物流・商用領域は『運行管理』や『エネルギーマネジメント』など未来に向けて、みんなで協力すべきテーマが多く、“納期”を明確にしやすいという特性がある。課題と納期が明確になれば、解決のための行動につながる。その行動はカーボンニュートラルに向けた乗用車・二輪車の取り組みにもつながる。喫緊の課題である物流・商用領域に全員で取り組むことが未来への重要な一歩になるとの認識の下、大型車の世界で豊富な経験を持ついすゞの片山さんに、次期会長をお願いしたいということになった」(豊田章男会長)と説明した。
つまり、残業規制による深刻なドライバー不足が発生するといわれる「2024年問題」など、直近の課題を抱える物流・商用領域での大型車(トラック・バス)メーカーから次期会長を選出するのが最適だというのが豊田章男会長の考えだ。
その結果、初のいすゞからの会長選出となったわけだが、実はすでに伏線はあった。
その一つが、まず20年9月に自工会改革の一環で、新たな副会長に大型車代表として片山いすゞ社長(当時)と、二輪車代表として日高(正しくははしご高)祥博ヤマハ発動機社長を選出したことだ。大型車・二輪車メーカーからの副会長入りは初めてだったが、2期3年目を迎えた豊田章男会長の肝入り人事だった。この時点では神子柴寿昭ホンダ会長(当時)が筆頭副会長で残っていた。
さらに、22年5月に豊田会長の任期が2年延長し3期目に突入したタイミングで、ホンダは神子柴氏から三部敏宏社長が代わって副会長になるとともに、日産から内田誠社長と、軽自動車代表として鈴木俊宏スズキ社長が副会長に加わった。豊田章男会長を支える副会長は7人となり、乗用車・商用車・軽自動車・二輪車のトップが集うフルラインナップとなった経緯がある。
これにより自工会の正副会長体制は、豊田章男会長と片山、日高副会長の3人が代表理事となっており、今回の会長選出の布石となっていたのである。
今年の初めに3年ぶりに開催された自動車5団体賀詞交歓会で、豊田章男会長が新型コロナウイルスに感染し、急きょ欠席となったが、その代役として登壇したのが片山副会長・代表理事だった。これも豊田章男会長の後継として意識させるには十分な出来事だ。
いすゞは4月に社長交代を行い、南真介氏が社長・COOに昇格し、片山氏が会長・CEOに就任する体制に移行している。内政は南社長・COOが、自工会会長などの業界活動は片山会長が分担する流れもできていた。