その頃、SmartHRの社内Slackにある新規事業を考えるチャンネルで、当時執行役員だった高橋さん(現Nstock取締役・共同創業者の高橋昌臣氏)がCFO玉木さん(SmartHR取締役CFOの玉木諒氏)に「ストックオプションを管理するSaaSのニーズってないですか」と投げかけていました。このスレッドが大変盛り上がり、2週間で120件もの返信がつきました。最後の方には「これは面白い」と、私も事業計画に近い企画書をスレッド上に投稿します。それがNstockのもとになるアイデアとなりました。

──Nstockで目指すことは何ですか。

日本のスタートアップエコシステムをより強くし、さらにスピードアップして回転を上げること。そしてストックオプション(SO)や譲渡制限付株式ユニット(RSU)といった株式報酬は、そのための最初の入り口となると考えています。スタートアップの株式報酬制度を変えることで、人の流れもお金の流れも強いものがつくれると思います。

海外ではこのエコシステムがすごい。たとえばSmartHRにも出資する米国のベンチャーキャピタル(VC)で、Sequoia Capitalが擁する事業体の1つ、Sequoia Heritageは、Sequoia Capitalが出資して成功した起業家たちが出資するファンドだといわれています。こうした流れがあることはすごく強い。お金だけでなく、人やノウハウまで一緒に流れていくことになるからです。

私たちもそれと同じように、スタートアップエコシステムの中にさらに強い流れを作り、日本からもGoogleのようなスタートアップが生まれる土台を整備したいと考えています。

SOなどの株式報酬の違いが日米の差が拡大する大きな要因になっている

──日本の株式報酬の何が課題と考えていますか。

日米の経済はこの30年間でかなりの差がついたとよく言われます。米国経済の成長要因をよくよく見てみると、もともとあった大企業が成長し続けているというよりは、新興企業、特にビッグテックと呼ばれる企業が成長の波に乗っていて、その差が大きいということに気づきます。

日米企業の時価総額の大逆転
日米経済は米国のビッグテックの成長により差がついている 画像提供:Nstock

この差の大きな要因の1つが株式報酬であると私は考えています。

ビッグテックでは、おおむね1〜2%の株式報酬が従業員に配られています。

たとえばGoogle(Alphabet)は時価総額が約150兆円あります。そのうちの2%、約3兆円分を毎年社員に譲渡制限付株式ユニット(RSU)やストックオプション(SO)といった株式報酬として配っているのです。単純に社員数で割ったとしても、1人当たり2000万円強という計算になります。また、もらったタイミングでは2000万円の株だったとして、2年、3年たって株価が2倍、3倍となれば、その額は4000万円、6000万円と増えていきます。こうした株式報酬を毎年もらえるとなると、かなりのインパクトがあります。優秀な人材が集まり、定着しますし、より時価総額を上げるためにがんばるということにつながります。