SmartHRでもSOをもらっている人にアンケートを取ってみたのですが、自分がどれくらいのSOを持っているか、知っている人は4割ぐらいでした。シミュレーターを作ってオファーの時にそれを見せたり、その後もそれを使えるようにしたり、勉強会も定期的に行っていたのですが、それでも4割ぐらい。そこまで実施している会社も少ないはずですから、そうでない会社ならもっと、誰も知らないんじゃないかと思います。

「小粒IPO」横行の理由にもなる税制適格SOの行使期限

──そのほかに、SO制度の課題はありますか。

岸田内閣は先日、「スタートアップ育成5か年計画」を発表しましたが、その中にはSOに関するプランも結構盛り込まれています。代表的なものでは、税制適格ストックオプションの行使期限を延長する、というものが挙げられます。

税制適格SOは一般によく使われる、税金のメリットが大きいSOです。現在は税制適格SOの行使期限は10年で、社員に付与して10年たつと、完全に失効してなくなってしまうというルールになっています。

米国でも10年の縛りはあるらしいのですが、日本と少し状況が違う点は、未上場でもSOを行使して株に変えることができることと、その株を売れるセカンダリーマーケットという土壌が整っていて、買ってくれる人たちがいるということです。このため、10年の縛りが問題になるという話はあまり聞いたことがありません。

一方日本では、未上場株のセカンダリーマーケットがほとんど整備されていません。また行使して株に変えることは、法律上できなくはないのですが、かなり難しいです。そこで「10年以内にIPOしなければいけない」というような縛りがスタートアップに生まれてしまうのです。

最近IPOしたスタートアップでも、評価額が直近の資金調達ラウンドと比べて大きく下がる、ダウンラウンドIPOが目立ちました。本来、もう少し待ってIPOしたかった企業もあるはずですが、おそらくこのタイミングでのIPOとなった理由の1つには、SOも少なからず影響しているのではないかと思います。

私もSmartHRで、SOを発行して長い間事業を進めていると、みんながSOを行使できる期限が気になるという経験をしました。その期限を過ぎてしまうということは、社員とのコミュニケーションの仕方によっては約束を破っていることになりかねません。その後の人間関係にも大きなひびが入りますし、会社のレピュテーションとしてもマズい。それがもう実質、IPOしなければならないデッドラインになってしまっているのです。