一方、日本国内で見るとどうでしょう。大手IT企業の例としてソフトバンクを挙げると、時価総額10兆円に対して株式報酬は0.013%、13億円ほどにとどまります。内容としては、ほとんど役員報酬としての位置付けと考えられ、「全社を挙げて時価総額を上げていこう」というモチベーションには、正直つながりにくい構造になっていると思います。

日米企業の差、圧倒的に劣る株式報酬
日米の株式報酬の差 画像提供:Nstock

新興企業ではメルカリやラクスルが、米国のビッグテック並みの株式を報酬として出していくという、先進的な取り組みを行っていますが、まだほんの一握りの会社の動きにとどまっています。

人材不足や制度の課題により株式報酬が魅力的に見えない日本

──米国と比較して日本で株式報酬が根付きにくい理由はありますか。

私が昨年1月24日、Nstock設立を発表して、すぐに参画したいと声をかけて入社してくれた野瀬さん(野瀬梓紗氏)は、前職のメルカリではSO発行をはじめとする株式報酬に関する業務を取り仕切っていました。メルカリの株式報酬専門チームには、兼務も含めると多いときで8人いたそうです。報酬設計から運用、株式売却まですべてを見ていたので、それでも相当大変だったそうですが、そうした体制をつくれる会社はおそらく、ほとんどないでしょう。

また、対応できる人を採用するのも、とても難しいです。というのも、株式報酬では、税務、会計、法律や、配り方も重要なので人事制度など、いろいろな要素が絡んできます。専門知識が必要で、オペレーションにも大きな負荷がかかります。

SmartHRで年末調整のプロダクトをつくったときには、「年末調整ってものすごく大変だから、ソフトウェアを作れば売れる」と思いましたが、株式報酬にかかわる業務は、話を聞いているとその3〜9倍ぐらいは大変だという感覚があります。SmartHRでも弁護士の資格を持つ人がメインで株式報酬業務を担当していましたが、普通のコーポレート業務の担当者がこの業務に当たるのは難しい。ですから、日本の一般的な企業では、株式報酬制度をきちんと使うことができていません。だからこそ、米国に負けているのだと思います。

──法制面などでも課題があるのでしょうか。

米国企業と同じことをしようとしても、日本では法律の制限でできないということもあります。さらに法的には問題がなくても、スタートアップの「慣習」でできない、といった要素もあります。

さまざまな制限によって、株式報酬制度が魅力的でないがゆえに、従業員も株式報酬を報酬と捉えることができていません。自発的に制度を勉強しようとか、リテラシーを上げる気にすらなれていない。自分の年収を知らない人は多分、あまりいないと思います。しかしこれが株式報酬の話になると、自分がいくら持っているのか、知らない人は大変多いのです。