スタートアップ出身の起業家が生まれにくい理由にも

──スタートアップ業界内の人材流動にもSO制度が影響しているといいます。

スタートアップ業界の中でももっと人材の循環が起こった方がいいと私は考えています。メルカリやSmartHRでスタートアップを経験した人たちが起業したり、もう少し若いシード期・プレシード期のスタートアップに飛び込んだりするといい。一度急成長を経験した人たちが新しい会社を作り、小さな会社をサポートすることは、スタートアップエコシステムの回転を速めて、成功確率を上げるためにはとても重要だと思います。

ところが「退職したらSOが失効する」「ベスティングが長い」ということによって、人を過剰に縛り付けている。SmartHRには750人ぐらい社員がいますが、残念ながらスタートアップを起業した人は、今のところゼロです。本来ならやり方をわかっているはずなので、一番成功確率が高い人たちのはずなんですが。私が創業初期に作ったSOの条件が、退職で失効、IPO起算という条件であるために、それがかなり邪魔をしてしまっているのではないかと思っています。

SmartHRでも、一定期間以上勤続した場合には退職してもSOを失効せず、べスティング条件もなくなるという内容に切り替えることを考えています。しかし少なくとも現時点で、日本のスタートアップのほとんどが以前と変わらない条件でSOを発行しています。一番起業に近いのはスタートアップで急成長を経験した人たちだと思いますが、それをこの株式報酬の仕組みがとどめてしまっている状況です。

SO制度で会社と社員の関係を「Win-Win」にするためには

──とはいえ、スタートアップ経営者にとっては「退職時にSO失効」とした方が都合がよいという声もあるのでは。

SO制度の欠点を埋めることが、スタートアップの経営者側にとってはある種のリスクにつながることは確かで、意見が分かれるところです。創業初期のスタートアップで退職する人のSOが失効するのは、長く在籍してくれる方が会社にとって得だという考え方があるからです。

ただ実際のところ、スタートアップのステージが進んだときには、例外はありますが、ずっと同じ人が活躍し続けることはないという、ある種の確信めいたものが私にはあります。創業フェーズに一番力を出せる私自身が典型的な例ですが、基本的にはそれぞれの人に活躍するベストなタイミングがあるからです。

それがSOのために、自分が活躍しにくいステージのスタートアップに残ってしまうと、会社と社員がWin-Winではなく、Lose-Loseの関係になってしまいます。会社としてはモチベーションが下がってしまった人に残り続けられ、社員としても次のチャレンジはしたいけれどSOが行使できないから残らざるを得ない。