最近は、これがよくないという考え方が少しずつ浸透してきた感はあります。前職でスタートアップに在籍していて、自分も退職したら失効するSOに悩んだ経営者の人は、割とポジティブに退職を選べるようなSO設計、つまり退職してもSOを持ち出せる設計にする人が増えている印象です。

また、優秀な人材をつなぎ止めるという観点では、SOだけが手段ではないと思います。少し人事寄りの話になりますが、エンゲージメントが高い会社はやはり業績がいいらしい。これはエンゲージメントが高い人たちは、平均より成果が高いからだといいます。

──エンゲージメントを高める手段としてSOは有効ではないのでしょうか。

エンゲージメントがどうすれば高まるかというと、報酬や福利厚生の充実よりも、その人が組織の中で自分の強みを発揮できていると感じてもらう方が重要だといいます。

私も昔、かなりブラックなベンチャーに所属していたのですが、おそらくエンゲージメントは高かったと思います。なぜなら、自分の強みを生かせている感覚があったからです。一方、ホワイト企業にいたころは、自分の強みを生かせている感覚がなく、とてもいい会社なのにエンゲージメントが上がらなかった記憶があって、この話には納得感があります。

SOももちろん、重要な一要素ではあるのですが、本当に会社の中で活躍し続けている人は、たぶんSOの条件だけでは辞めないと思います。優秀な方にはその人が自分の強みを生かせる環境を用意する、その人が面白いと思える仕事を提供するといったことが何よりも重要です。

ちなみに、「退職したらSO失効」「ベスティングはIPO起算」という条件も、以前は多かった「最短上場」や「最年少上場」を目指しているような人たちにとっては、有効かもしれません。2年、3年でIPOを目指すときに、IPOしたら社員が辞めるとなっては困るので、ベスティングはIPO後2年に設定しておく、とすれば入社時から数えても5年です。そういう背景があれば、理解できなくはありません。

ただし、今はIPOまで10年かけて、長期戦で会社をどんどん大きくしていこうという傾向になっています。そうした傾向には昔ながらのSO制度は全くフィットしないのでは、と思います。メルカリのように時価総額1兆円を越えていけるようなスタートアップを生むための施策としては、その流動性を促すような設計は不可欠です。

SOを変えようという動きは、我々のようなスタートアップだけでなく、日本経済団体連合会(経団連)や新経済連盟(新経連)、スタートアップ協会など、いろいろな方面で強まっています。シリコンバレーでデータプラットフォームサービスを提供するトレジャーデータを創業した芳川さん(トレジャーデータ取締役会長の芳川裕誠氏)もストックオプションの即効性と効果の大きさに触れ、制度の改革を政府に提言していて、とてもいいことだと思っています。