超名門企業が陥った経営の失敗
企業経営とは本来、社会、経済の変化を機敏に察知し、より高い成長が期待できる分野にヒト・モノ・カネのリソースを再配分し、より長期的な収益を増やすことが求められる。そのために利害関係者である株主、従業員、地域社会、取引先などとの調整を絶え間なく行う必要がある。
いつからか東芝の経営者は、そうした役割を十分に発揮することができなかった。高い製造技術、優秀な人材、豊富な資金があっても、経営の失敗が続くと企業は立ち行かなくなる。
1875年(明治8年)の創業以来、東芝は重電・家電分野で多くの新しい製品を発表した。自社での研究開発、海外企業との提携などを通して製造技術を磨き、社会の厚生を高める。対価として収益を得る――。そうしたビジネスの基本姿勢により、東芝は魅力的な商品を生み出した。
象徴的な商品は、ノートパソコンだ。1985年、東芝は欧州市場で「T1100」を発売した。当時はNEC「98」シリーズなどのデスクトップ型パソコンが主流だったが、東芝は、中長期的に情報通信分野ではデータ処理速度の向上が加速し、モバイル型のデバイス需要が高まると考え、先手を打ったのだ。そうして、94~2000年まで東芝の「ダイナブック」はノートパソコン市場で世界トップシェアを手に入れた。
東芝は、新しい記憶媒体であるNAND型フラッシュメモリーの開発も進めた。NAND型のフラッシュメモリーは、スマホのデータ記憶装置として世界中で需要が急拡大した。また、パソコンの記憶装置として用いられている、ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)に関しても東芝の貢献は大きい。
1990年代に米国でIT革命が起きて以降、世界のデジタル化は加速している。そうした時代の到来を、東芝はかなり早い段階から予見していたといえるだろう。