○ 労使協定は、事業場労働者の過半数から成る労働組合か、該当する労働組合がない場合は労働者代表(労働者の過半数を代表する人)とで締結する。労働者代表は会社側が指名することはできず、従業員間での話し合い等で決める。
○ 締結した労使協定の内容は全従業員に及ぶ。そのためA子が給与天引きに反対したとしても認められない。
○ 社員旅行費の給与控除に関して労使協定を締結する際は、以下の内容を明記して従業員に周知し、納得してもらうことが必要になる。
(1)社員旅行の時期や予算、給与からの天引き額
(2)旅行積立金を社内預金として預かる場合はその勘定項目
(3)社内旅行に参加しなかった場合の返金についての定め
直前に不参加になった場合の扱い……キャンセル料などの経費を差し引くなど
自己都合で不参加の場合は、積立金を返金しないなど
○ (3)の扱いを定めなかった場合、旅行不参加であれば旅行積立金を全額返金する必要がある。
○ 労使協定の締結後に入社する従業員には、社員旅行費を給与から天引きすること、および協定内容を説明すること。
○ 労使協定を締結しただけでは天引き扱いはできず、就業規則への記載、もしくは従業員個々の合意が必要になる。
「甲社の場合、今まで社員旅行費の給与天引きに対してクレームはないようですし、何より社員の皆さんが旅行を楽しみにされています。E専務から皆さんに説明をすれば労使協定はスムーズに締結されると思いますよ」
「労使協定書は36協定みたいに労働基準監督署への届け出が必要ですか?」
「その必要はありません。就業規則と同じく、社員がいつでも閲覧できるような場所に保管してください」
「分かりました。早速、総務で労使協定書を作成します。もう一つ質問ですが、労使協定を締結すれば、どんな費用でも給与天引きができますか?」
○ ただし、従業員側から天引きを希望するなどの合意があれば天引きが可能である(会社が天引きを強要することはできない)。
○ 福利厚生につながらない費用の一例。
・業務上必要な道具代、研修費など
・従業員が会社に損害を与えた場合の損害賠償額
・給与を前借りした場合の相殺額 など
F社労士と面談した1週間後、社員の代表と労使協定を締結し、就業規則の変更を労働基準監督署に届け出た甲社は、これまで通り社員旅行費の給与天引きを続けることになった。そして旅行不参加のA子に対しては、E専務がこれまで天引きしていた社員旅行費の全額を返金する約束をした。そして労使協定の締結と就業規則の定めに基づき、来年度の社員旅行費として12月25日給与支払い分から天引きを継続する旨を説明し同意を得た。
翌日、出勤してきたA子にD課長は、
「忘年会で君がどんな芸を披露してくれるのか期待してたけど、見られなくなって残念だ」
と言った。
「じゃあ、今から披露するっていうのはどうですか?」
課内朝礼の終了時、A子は自身のスマホでCの曲を流し、ダンスミュージックに合わせノリノリで踊ってみせた。当初あぜんとしていた先輩たちも、やがて手拍子を打ち、一緒に盛り上がった。
踊り終わったA子が自席に着くと、D課長が「なかなかうまいねえ。来年の忘年会は隠し芸でよろしく頼むよ」と言い、A子は「ぜひ、そうします」と元気よく答えた。
※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、一部を脚色しています。