トコジラミに刺されると
どうなるのか?

【閲覧注意】吸血トコジラミに260回刺された男が語る「かゆみより恐ろしいこと」2019年7月にフランスのチェーン系ホテルで被害に遭った辻啓さん photo by Kei Tsuji
【閲覧注意】吸血トコジラミに260回刺された男が語る「かゆみより恐ろしいこと」被害にあったときを「地獄でした」と辻さんは振り返った photo by Kei Tsuji

 「コロモジラミ」は衣服の縫い目やホテルのベッドやカーペットなどに生息。多くの人が最近耳にしている「トコジラミ」と同じ種類だ。「南京虫(ナンキンムシ)」と呼ばれることもある。

 23日間におよぶツール・ド・フランス取材を終えて、その2日後に帰国した私は、すぐに皮膚の異常に気づいた。数え切れない虫刺され痕があって、そのひどさに驚いて皮膚科に駆け込んだ。「フランスから帰ってきました」と医師に伝えたとたんに、「あ、それはシラミです。コロモジラミですね」と断定された。専門医の間でフランスのシラミ事情は知れ渡っていることが、そのことだけでうかがえた。

 じつはパリのベッドシーツになにかがうごめいていたのは目視している。皮膚科の医師によれば、「ダニは見えないので見えていたのならシラミ」という。通常は白色透明の姿だが、皮膚にとりついて吸血すると大きくなって赤黒くなる。コロモジラミは厳密にはカメムシの仲間で、吸血して5〜8mmほどに大きくなった姿はカメムシだ。10円玉のような色をしていて、つぶれると赤黒い体液でシーツに色がつく。

 症状としては刺されてから2〜3日後に赤い発疹が発生。私の場合は首筋や両腕などを刺されていて、「着衣の中を刺されていたらダニ、露出している部分ならシラミ」という特徴とも合致していた。処方された薬を塗りながら数えたらなんと260カ所。見た目の異常さで人には見せられない状況だった。かゆみがあって引っかいてしまうと、感染症のおそれがあるし、傷が残りそうなのでひたすら我慢だ。

 もう少し具体的に記述しよう。異変も気づいたのは就寝中。首筋になにかが這うような感触があり、電気をつけてみると乳白色の小さな生物がいるのを見た。また前夜に他の宿泊客の血を吸った個体もいて、枕カバーの中に数十匹がいて、カバーを開けると床のカーペットにバラバラと音を立てて落ちていった。
 
 「いやな虫だな」と目についた個体をベッドシーツの上から払い落として、再び就寝したのだが、まったく知識がない上の大失敗だった。翌朝に腕や胸、首筋、太ももなどに赤い小さな穴を発見。2日ほどはその程度の認識で、日本に帰国するのだったが、3日後にはこれまで経験したことのない疾患にさらされていることを悟る。幸いなことに私の場合、かゆみの程度はそれほどでもなかったし、掻きむしってはいけないと我慢した。
 
 ひどい状態なのは真っ赤な腫れによりボコボコになった皮膚だ。治癒して元の状態に戻るのかなととても不安になり、皮膚科の医師に診察を受けたのは言うまでもない。「安心してください。シラミです。悪い病気じゃありません」と言われて安堵した。
 
 罹患してから10日間は真夏にもかかわらず襟のある長袖シャツを着用。電車の中でゾッとされることは間違いなかったからだ。そしておよそ2週間で快方に向かった。