前田 今の広告市場は基本的に幅でその価値を判断していますよね。テレビで言えば視聴率、ネットでいえばPVやUUなどですが、それらはすべて「どれくらいの人が見たのか」という幅の観点であって、「その人の人生にどれだけ深く影響を与えられたのか」という数値ではない。僕自身、テレビ番組に出ていて、視聴率と実際の反響の間で乖離を感じることがあります。

徳力 なるほど単純な視聴率の量とは違う質の深さがある感じですよね。ただ、一般的には、その深さは心の動きだからデジタル系の効果測定ツールで測るのは難しいし、従来の企業は量の測定に慣れてしまっているため、結局は数が多くなければダメだとなりがちですよね。

SHOWROOM前田裕二が挑戦する「深さの広告」とは前田裕二氏 提供:Agenda note

前田 まさに、そうです。

徳力 その深さの大切さは、どう説明すれば分かってもらえるのでしょう。

「深さの指標」が必要

前田 ものさしとなる「尺度」が絶対的に必要だと思います。深さのエンゲージメントを測る指標、深さの物差しのようなものがこれまではなかった。尺度ができ、深さが重要だとみんながいっせいに言い始めたら、広告やクリエイティブのつくり方も変わると思います。だからと言って幅の指標がなくなるわけではありません。コンテンツに愛着を持つ濃いファンをつくりながら、幅も取りたいというニーズは必ずあります。

徳力 私も一度、深さの指標をつくろうとしたことがあるのですが、うまくいかなかった経験があります。

前田 指標をつくるためには必要なことが2つあって、ひとつは本当に深さを持っているプラットフォームが旗を振るということ。もうひとつはプラットフォームだけでなく、みんなで旗を振る、ということ。

 SHOWROOMが深さの指標を使って、こんな成功事例を生みましたと言えば、たぶんほかの深さを持っているメディアも同じことを始めると思うんですよね。それが組み合わさり拡大していけば、だんだんと広告主の価値観や行動も変わっていくのかなと思います。現在の広告市場ではエンゲージメントが重要視されていますが、そのために何をすべきかが分からずに悩んでいる状況はあるかと思います。

徳力 広告会社にとっても必要ですよね。

前田 そうです。広告会社はクライアントの幸せを考え、ひいては生活者の幸せにもコミットしているわけですから。今、流れている広告のすべてが本当に生活者の幸せにつながるのか。深さが測定できるようになれば、そういった発想がもっとクリエイター側に植え込まれるようになり、広告のつくり方自体変わるかもしれません。