徳力 本来はリーチとエンゲージメントの両軸で考えるべきなんですよね。たとえば、今のダイレクト広告は、どれだけ大量に広告をぶつければ人は動くのかというリーチばかりを考えがちな印象がありますが、そこにエンゲージメントという指標が入れば変わってくるはずです。

前田 まさに、そうなんですよね。すごく難しいことですが、それをどうしても、やりきりたいんです。

深さの広告で菓子がコンビニからなくなった

徳力 エンゲージメントを重視した広告をつくるときに、クラアイントにスタンスをひとつだけ変えてもらうとしたら、それは何でしょうか。

前田 おそらく、本当のエンゲージメントとは何かを一度、体感してもらうことだと思います。たとえば先日、ニッポン放送とのコラボ企画で24時間生配信をしたときの例です。

 僕はニッポン放送の番組にゲスト出演しながら、裏側でSHOWROOMの生配信も24時間行い、両方の放送を行ったり来たりしました。ラジオは深さがあるメディア。その深さが番組終了後にどこに現れるかと言うと、TwitterなどSNSで楽しかったというコメントが寄せられて発散されるんです。

 もしこの深さを受け止める場所がSHOWROOMにあれば、リスナーのエネルギーがそこに凝縮され、媒体価値が生まれる。スポンサーがついても価値提供できるのでは、と思ったんです。

徳力 たしかにラジオと連携してSHOWROOMにスポンサーが付くと新しい価値が生まれそうです

SHOWROOM前田裕二が挑戦する「深さの広告」とは徳力基彦氏 アジャイルメディア・ネットワーク アンバサダー・ブロガー /ピースオブケイク noteプロデューサー NTTやIT系コンサルティングファームなどを経て、 2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの1人として運営に参画。「アンバサダーを重視する アプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より取締役。2019年6月末で退任、7月から現職。同月、ピースオブケイク noteプロデューサー/ブロガーにも就任。 提供:Agenda note

前田 そうなんです。コルク佐渡島さんも「コンテンツの流行には、”語る場所”が必要不可欠だ」と言っていましたが、ラジオ番組も同様だと思います。同じラジオを聞いている人が放送の前後に話せる場所があれば、そこに新たな濃いコミュニケーションや横のつながりが生まれ、それが価値になる。その場所をSHOWROOMにしたんです。

 スポンサーには菓子メーカーさんのほか数社についていただきました。僕は放送中24時間を耐えるために糖質を摂るという意味でも(笑)、本当に好きでずっとそのお菓子を食べていたのですが、それによってその商品が一部コンビニからなくなるくらいに売れたんです。ファンやリスナーの方との繋がりが深いからこそ起きた現象だと思います。

徳力 そうか、見る側も前田さんと同じペースで放送についていくために同じお菓子を食べたという、いい文脈ですね

前田 そうです。そこに嘘がないので。この、嘘がない、つまり「本当に好きである」ということも、全てが伝わってしまうインターネット時代における「深さ×広告」の大事な要素かなと思います。