香港の選挙は
「AKBの総選挙」のようなもの
1つは、「香港の選挙はAKB48の総選挙のようなもの。AKBの総選挙は、実は秋元康さんが全てを決めているように、香港の選挙も中国共産党が全てを決めている」と語っていたこと。
もう1つは「公正な選挙のない香港では、民主主義を勝ち取るために暴力という手段を用いることが肯定される」と訴えていたことだ。その中で、「生まれた時から民主主義が当たり前にある日本の若者には分からない」という発言もあった。
1996年生まれのアグネスさんは当時20歳前後だったこともあり、AKB48を応援する「普通の女子大生」の側面があった。その一方で、「暴力肯定論」と受け取れる発言をする「過激な活動家」の側面も持ち合わせていた。相反する要素が同居していたのだ。
ただ、アグネスさんは「私だって暴力は使いたくないですよ」と筆者に語ったこともある(第261回)。筆者は、これが先陣を切って反政府運動を展開する「香港民主化運動の女神」と呼ばれた人物の、本当の気持ちだったのではないかと思う。
だから筆者は、アグネスさんとの交流について取材を受けるたびに「女神と呼ばないでほしい」と訴えてきた。確かに彼女は民主化運動の「広報(スポークスマン)」を務めていたが、運動の中核を担っていたのは別の人たちであり、アグネスさん自身に「政治力」があったわけではないからだ。
そしてアグネスさんの逮捕を機に、筆者と彼女の連絡・交流は途絶えた。今回の「事実上の亡命」の件についても、何か連絡を受けたわけではない。
政治団体「Japan Hong Kong Democracy Alliance」のFacebookページに掲載された、アグネスさんの投稿の日本語訳を見て、初めてその後の経緯を知った。そこには下記の通り、逮捕後の心境や、国安警察の実態が赤裸々につづられていた(一部要約)。
・直近の数年間は新しい経験もあったが、自分の青春を無駄にしたと感じていた
・そこで修士課程への入学を決め、最終的にカナダの大学院に受け入れられた
・留学に当たって、国安警察から「過去の政治(活動)参加を後悔している」といった趣旨の「始末書」を書くよう求められた
・出所後にパスポートを没収されており、返却を求める必要があった
・国安警察の同行の下で中国本土に行き、「中国と共産党の発展」「歴代指導者の素晴らしい業績」などについての展示を見学して初めて、パスポートを返却された
・カナダで学び、心の傷を癒やしたい