カナダ側もアグネスさんを
「死守」するはず

 とはいえ、これから中国当局がアグネスさんの身柄を簡単に拘束できるかというと、事はそう単純ではないだろう。カナダ側にも「覚悟」があるはずだ。

 あくまで筆者の見立てだが、中国共産党と闘ってきた著名人から入学願書が届いた際に、留学先の大学院(トロントにある大学院だと報じられている)が独自の裁量で合格通知を出したはずがない。カナダの政府や公安当局と協議を重ね、アグネスさんの身柄の安全を保障できると慎重に判断した末の“入学”だと考えられる。

 さらに、アグネスさんが出した「一生香港には帰らない」という「事実上の亡命宣言」も、たった一人で考案・発信したわけではないはずだ。筆者の知る彼女は、したたかで大胆な行動ができる人物だ。カナダをはじめ、以前から支援がささやかれてきた米国や英国から、何らかの保護が得られる確証があったのだろう。後ろ盾があったからこそ、SNSを更新したとみられる。

 中国がアグネスさんを指名手配し、身柄の引き渡しなどを要求しても、カナダは断固拒否するはずだ。自国の国内で、中国が警察活動やスパイ活動を行うことを絶対に許さないだろう。国家主権の侵害であり、内政干渉に当たるからだ。

 一例を挙げると、「インドからの分離独立」および「シーク教徒の国家の建設」を目指す「カリスタン運動」のメンバーが今年6月、バンクーバー近郊で殺害された。

 カナダのジャスティン・トルドー首相はこの事件を踏まえ、「インド政府の工作員」が関与したことを示唆。インド政府を厳しく批判した。国内における外国勢力の工作活動は絶対に許さないと、主権国家として強い姿勢を示したのだ。

 カナダは中国に対しても同様の強い姿勢をとるはずだ。国家の威信を懸けて、アグネスさんを死守するだろう。そして繰り返しになるが、アイドル好きの「普通の女子大生」だった彼女が、これ以上民主化運動を背負う必要はないと筆者は考える。