武漢で新型コロナウイルスの感染が
始まった時の「八文字」を改変

中国のSNSやネットメディアで拡散されている8文字のメッセージ2020年頃、中国のSNSやネットメディアで拡散されていた「山川異域、風月同天」のメッセージ(筆者提供)

 もう一つは、2020年初め、武漢をはじめ中国の各地で新型コロナウイルスの感染が広がった時のことだ。日本は世界で最も早く中国を支援し、日本政府やさまざまな民間団体は、マスクや防護服などの支援物資を次から次へと中国へ送った。

 そんな中、ある支援団体が中国湖北省に送る支援物資の段ボールに添えた1枚の紙に、こんなメッセージが書いてあった。「山川異域、風月同天」~山と川は違っても、同じ風が吹いて同じ月を見る。つまり、場所は違っても同じ自然や志でつながっているという意味だ。

 これはたちまち中国で大きな話題となり、称賛の声が嵐のように巻き起こった。中国の人々はこの「八文字」に「山河は違えど、同じ風が吹き同じ月を見る……なんと美しい!まさに今の日中関係を表している。本当に感動的で、涙が出た」と共感した。

 また、その時に日本は支援物資を送っただけでなく、街で募金をし、繁華街のあちこちに「武漢、頑張れ!」などの看板が掲げられていた。こうした日本からの援助を、中国人は「雪中送炭」(困窮している人に物資を送るなどして助けること)と形容し、「日本、ありがとう!この恩を忘れない、必ず返します」と感謝の言葉を述べた。

 それ以来、「山川異域、風月同天」は、さまざまな場面で引用され、日中友好を象徴するキーワードとなっていた。これまで筆者が参加した日中交流のイベントでも、中国の主催者側がキャッチフレーズとして、この言葉を横断幕などに書いているのを見かけた。

 しかし今回、八文字の後半の四文字が変えられて、「山川異域、不共戴天」となり、広がっている。「不共戴天」とは「敵と同じ空の下で共存したくない」という意味で、極度の憎悪を表す言葉だ。