議員たちは、これらの利益誘導のための政治資金を確保するために散々苦労していた。その結果、さまざまな「政治とカネ」の問題が起こってきたのだ。

 それだけでなく、中選挙区制には別の弊害もあった。1つの選挙区に複数候補を擁立できることから、大規模政党である自民党が単独過半数を容易に獲得できるようになり、政権交代が極めて起こりにくくなったのだ。

 その結果、政治の緊張感が失われ、議会運営の硬直化を招いた。自民党内では公然と派閥が結成され、時として対立する動きが過熱していった。

 ただその後、90年代前半に入ると、選挙制度改革(小選挙区比例代表並立制の導入)や政治資金制度改革がなされ、選挙は利益誘導よりも政策を競うものに変化した(本連載の前身『政局LIVEアナリティクス』の第27回)。故・田中角栄元首相のように、強烈なカリスマ性と権力を持つ一方で、裏金を巡る大問題を引き起こす“巨悪”も現れなくなった。

選挙制度を改革しても
「政治とカネ」の問題が続く理由

 だがそれでも、政治資金規正法違反が起こり続けたのは周知の通りだ。整備されたはずのルールの「抜け道」を探し、裏金作りが横行した。閣僚の辞任も常態化した。挙げ句の果てに、今回の「パー券問題」まで発生した。

 制度改革を行ったにもかかわらず「政治とカネ」の問題が続くのはなぜか。

 海外に目を向け、選挙制度改革のモデルとなった英国との「スキャンダルの起こり方」の差異を読み解くと、いくつかの原因が見えてくる。

 2009年に英国で起こった「下院議員経費スキャンダル」は、地元を離れて首都ロンドンに宿泊する議員が宿泊料を経費として請求できる制度(当時)を悪用したものだった。

 英国の議員たちはこの制度を駆使し、高級家具の購入、田舎の大邸宅の堀の清掃、鴨小屋の設置、クリスマスツリーの電飾代、ガーデニング費用、ポルノビデオのレンタル料金などに経費を流用。結局、閣僚を含む労働党88人、保守党71人、自民党10人、その他政党4人の議員の関与が明らかになった(第28回)。

 この事件で注目すべき点は、主に三つある。一つ目は、この問題が「議会のあるロンドンで使われる経費」に関して起こったということ。二つ目は、政治資金ではなく「私的な生活費・雑費」に経費が流用されたことである。三つ目は、流用の目的が「生活費・雑費の補填」であり、日本と比べて金額の規模が微々たるもので済んだことだ。