「日本のニッチが世界のメジャーになる、新しい時代がやってきた!」
そう語るのは、世界中のVIPがいま押し寄せているWAGYUMAFIAの浜田寿人氏。浜田氏は、「ニッポンの和牛を世界へ!」をコンセプトに結成された「WAGYUMAFIA」を主宰。和牛の食材としての魅力を伝えるために世界100都市のワールドツアーを敢行。世界のトップシェフと日本の和牛を使ってDJのように独自の料理にしていくのが話題になり、全世界の名だたるVIPから指名される、トップレストランへと成長しています。「1個10万円のカツサンドが飛ぶように売れる」「デビッド・ベッカムなど世界の名だたるVIPから単独指名を受ける」、そんな秘密をはじめて公開して話題となっている著書『ウルトラ・ニッチ』の中から、本連載ではエッセンスをご紹介していきます。
業界慣習にひるむな。誹謗中傷に負けるな
どの業界にも、業界慣習のようなものがあります。映画でもシャンパンでも葉巻の世界にもある。そして、そこから生まれている画一化された仕事の流れがあるものです。
先に、和牛ビジネスのレイヤーをご紹介しましたが、新規参入者がやらなければいけないのは、そのレイヤーではない新しいレイヤーを発想することです。なぜなら、すでに既存のレイヤーにはプレーヤーがたくさんいるからです。
そこに入ろうとしても、摩擦を引き起こすだけです。だから、業界慣習や既存の仕事の流れにひるまず、そうではない新しいレイヤーを作る意識を持つのです。
必要なのは「わかりやすいビジョン」
業界の中には、「このままではいけない」「新しい何かを生み出したい」と思っている人もいます。こういう人は、必ず新しい動きを歓迎してくれます。きっと協力してくれます。
そのためにも必要になるのが、わかりやすいビジョンです。
僕の場合は、「和牛を世界に紹介する」「和牛の高い価値を認めてもらう」というビジョンを据えましたが、数字でも作っていました。250億円の牛肉の政府目標輸出額のうち、トップ5%を担う。シェアで20%。市場価値でいえば、50億~100億円。
大手の一次卸なら3000億円、1兆円、といったスケールの売上高を持っていますが、目指すのはそこではない。一次卸を目指すつもりもない、ということです。
実際、和牛だけのビジネスとなれば、こんなに大きなビジネスにはならないのです。だから、新規参入者として目指す価値がある。すでにある会社とも、まともに真正面からぶつかるようなことはなくなります。
新しいマーケットを創造する意識を持つ
重要なのは、新しいマーケットを創造する意識を持つことです。例えば和牛なら、僕はこんなことを考えるようになっていきました。
ざっくりの数字ですが、僕が例えにする数字遊びがあります。日本には400万頭の牛がいます。これはいろいろな牛が含まれていて、このうち40万頭が和牛です。そしてこの1割、約4万頭がブランド牛です。さらにこの1割が、約5000頭の神戸ビーフです。
ざっくり国内40万頭いる和牛の中でのトップティアの5000頭(月々400頭)を扱うビジネス圏を国際的に作り上げることです。
つまり、日本の牛の、0.01%。僕が握りたいのは、これだけなのです。しかも、グローバルマーケットを目指す。これだけなら、業界とぶつからず、いけるかもしれないと考えたのです。
こうした数字は、実は公開されていません。政府が発表しているのは、トン数だからです。金額ではない。品質も関係ない、冷蔵、冷凍でもどうでもいい、とにかく物量を輸出できれば、それでいい、と私には思えました。いかに高い牛を売ろうが関係がない、というのが政府の方針なのではないか、と。
業界が「最も苦しんでいそうなところ、一番難しいと考えていそうなところ」に挑む
しかし、ヒアリングすれば数字も手に入れることができます。いろいろな人が、いろいろな思いを持ち、いろいろな情報を持っているのです。
ある意味わかりやすいのは、業界が最も苦しんでいそうなところ、一番難しいと考えていそうなところに挑む、というのは、ひとつのやり方です。
業界の中に、いろいろなルールやしがらみがある中で、一番難しいところを担いたいと手を挙げたら、業界はラクになるかもしれない。また、誰も担えていないところも同様です。
ジグソーパズルのピースが埋まっていないところが「海外」だった
僕の場合は、海外がそうだったのです。たくさんの情報を収集し、たくさんの人に会う中で、ジグソーパズルのピースが埋まっていないところは、ここなんだな、ということが改めてわかっていきました。それがたまたま自分が得意なところ、やりたいところと一致したのです。
そして、自分がこの業界のことを本当に愛しているんだ、という取り組みをしっかり続けていると、徐々に周囲も応援してくれるようになります。最終的には、業界の中での仲間を増やしていくことが重要になるのです。
激突すべきは、ポジティブな情熱同士
中には敵対してくる人もいないわけではありません。「肉のことをわかっていないのに」と言われることもあります。でも、そこに刃向かっても仕方がない。だから、激突したりしない。そんなことをしても、何の意味もありません。
激突すべきは、ポジティブな情熱同士です。未来を視ている人とのディスカッションです。業界の慣習とぶつかっても、何も生まれない。慣習は簡単には変えられないので、新しいマーケットを創出していったほうが早い。もとよりこちらは武器もないし、資金もない。時間もないのです。
実際には、厳しいことも起こりました。例えば、知らないのをいいことに、最初の頃は、ずいぶんふっかけられ、高値づかみをさせられました。例えば、輸出の国際送料を現在の数字の3倍くらいに設定されました。海外への送り方なんて、素人にはわからないわけです。
しかし、それもまた授業料のようなものです。だからこそ、業界の中で学びを深め、知識をつけていかないといけないのです。
今は親しい生産者が何人もいます。実際のコストをよく知っているわけです。だから、最初の頃に、どのくらいボラレたのかもはっきりわかります。
ただ、僕にふっかけてきた人の気持ちもわかります。最初、冷やかしで業界に入ってこようとして、すぐやめてしまう人もいるのです。ある意味での参入障壁のひとつだったのだと思っています。だから、それほど心配することはないと思います。
(本原稿は、浜田寿人著『ウルトラ・ニッチ』を抜粋、編集したものです)