「友達だから率直に言うが、
虫垂がんに効く薬はないんだよ」

 まず、セカンドオピニオンで他の医師の意見を聞かなくては駄目だ。標準治療以外の治療法も探っていこう。そんな思いで自分の職場である新横浜在宅クリニックの城谷典保院長にアドバイスを求めた。彼は大学病院を退職するまで外科学教授として年間650例以上の消化器がんを手術してきた経歴の持ち主だ。虫垂がんの相談をするには、これほど頼もしい人物はいなかった。

 しかし、彼の意見は悲観的なものだった。

「友達だから率直に言うが、経験上、虫垂がんに効く薬はないんだよ」

 絶望的な気分になった。この世界に通じている者であっても、この希少がんには標準治療以外の手を示すことができないという現実を突き付けられたのである。

 この現実を前にして、私は最高の在宅緩和ケアを受けることこそが肝になると悟ったのだ。

「それでも地域のがん診療連携拠点病院や国立がん研究センターで希少がんのセカンドオピニオンを受けてみようと思う」と城谷院長に返した。と同時に「城谷先生に在宅で緩和ケアをお願いしたい」と懇願した。

「皮肉だね。まさか地域緩和ケアを一緒に進めている臼井さんの奥さんを診ることになるとは」。城谷院長はそんな言葉で温かく引き受けてくれた。