さて、重工爆破という大事件が起きました。福井班はすぐに、スクープをものにします。鑑識は総勢125人で証拠品2370個などを抑えましたが、肝心の起爆装置がみつかりませんでした。これでは、爆破の方法がわかりません。福井チームの鑑識担当記者は、事件初日に「鑑識にいって戻らない」と言ったまま音信不通になったそうです。彼はずっと鑑識の作業を見続けていたのです。その分、鑑識のメンバーに信頼され、仕事が終わったあと、警視庁地下の鑑識専用の風呂に一緒に入る関係になっていました。
そんな彼がもたらしたスクープも、決定的なものでした。「ダイナマイト使用。時限装置は旅行時計。起爆には電気雷管を使う。乾電池はナショナルハイトップ、二個の包みに分けた200本のダイナマイトをつけて同時爆破……」これらは、鑑識でないとわからない内容ばかりです。
福井氏は前述の著書でこう語っています。
「警察に密着することと、癒着することはまったく違う。密着することで、警察の捜査の不備をチェックすることもできるし、逆に警察のでっちあげやその真偽も判断できる。松本サリン事件のように集団誤報するのは、記者クラブにいて、自分の足で事件を追わないからだ」
トイレで隣り合った刑事から
事件に迫る「手がかり」を手渡され……
桐島逮捕で話題になった、彼らの教本『腹腹時計』の存在を知ったのも産経が最初でしたが、気がついた時点で警察が買い占めたらしく、どこにも見当たりません。記者の一人が山谷のドヤ街にもぐり込んで、探し回り、何日も経って入手してきました。実は入手できず、山谷まで行ったと聞いた刑事が秘密裏に貸してくれたのです。
ビルのトイレに呼び出され、隣で小便をしながら渡すというスパイ映画のような話ですが、記者の配慮も細かいものでした。チームに提出したときは、書き込みや染みまですべて修正液で消されていました。ニュースソースは絶対守るという記者の大原則を、彼は守っていたのです。
当時、福井氏は上司から「お前はどんな人の使い方をしているのか」と叱られました。チームの一人がエレベーターの1階から3階まで立ったままイビキを書いて寝ていたのを見たからだったそうです。昨今は企業で「働き方改革」が進み、私もその趣旨には賛成ですが、好きなことをトコトンやることまで法律で制限する、あるいは社の内規で制限するのは、コンテンツ産業には馴染みにくいということも事実なのです。