「日本のニッチが世界のメジャーになる、新しい時代がやってきた!」
そう語るのは、世界中のVIPがいま押し寄せているWAGYUMAFIAの浜田寿人氏。浜田氏は、「ニッポンの和牛を世界へ!」をコンセプトに結成された「WAGYUMAFIA」を主宰。和牛の食材としての魅力を伝えるために世界100都市のワールドツアーを敢行。世界のトップシェフと日本の和牛を使ってDJのように独自の料理にしていくのが話題になり、全世界の名だたるVIPから指名される、トップレストランへと成長しています。「1個10万円のカツサンドが飛ぶように売れる」「デビッド・ベッカムなど世界の名だたるVIPから単独指名を受ける」、そんな秘密をはじめて公開して話題となっている著書『ウルトラ・ニッチ』の中から、本連載ではエッセンスをご紹介していきます。

絶対コピーされないための3つの特徴を「和牛」は持っていた!Photo: Adobe Stock

リピートしてもらうのに最適な商品

 和牛を扱って改めて食関連のビジネスの魅力を実感しています。何より大きいのは、人は食べないと生きていけないということです。そして当たり前ですが、食べたらなくなる。そうすると、また食べてもらえる可能性がある。

 かつて、eコマースで日本のプロダクツを販売していて、大阪のイケテイが製造、姫路のタンナー、山陽が藍染めしたクロコダイルの名刺入れを僕自身も使っているのですが、立派なもので、いまだに使えるわけです。今も使える、と喜びの声をもらえるのもうれしいことですが、ビジネスとしてはどうか。名刺入れは、もうしばらく買う必要がない。僕の場合は10年以上も新しい名刺入れを買っていません。そういう商品は、新しいお客さまを見つけ続けないといけない。

 売り上げは、売ったときしか発生していない、ということです。1回だけの売り上げなのです。では、和牛はどうか。食べたら、その場でなくなってしまいます。気に入ってもらえたら、また買ってもらえる。リピーターにもなってもらえるのです。これはeコマース時代の深い学びでした。リピートしてもらうのに最適な商品。それが食なのです。

参入障壁が高い、高付加価値、模倣されない

 しかも、モノを扱っているときは、在庫管理も大変でした。シャツや靴などを扱ったりすると、サイズ、カラーの展開で、大変な量の在庫を持たなければいけなくなる。サイズが5つあって、カラーバリエーションが4つだけでも、20種類も同じものを仕入れておかないといけないのです。

 これをSKU(STOCK KEEPING UNIT)と言いますが、その数が多ければ多いほど在庫の数は多くなります。友人から「在庫という漢字は、罪の子と書くんだよ」と教えてもらったことがあります。食の場合は賞味期限があります。そのサイクルで売り切らねば、文字通り「罪の子」として廃棄処分されて、ビジネス的にはマイナスになります。

 さらにわかったことは、モノはすぐに真似をされるということです。オリジナルの鞄を作ったことがありましたが、あっという間に真似をされてしまいました。気がつくと、そっくりの鞄がその半値で他のeコマースサイトで売られていたりする。しかし、どうにもならないのです。日本人は、コピーがうまいのです。

 だから思ったのが、絶対にコピーされないものを作るべきだ、ということでした。和牛というカテゴリーを選んだのは、3つの大きな特徴が和牛にあると感じたからです。①参入障壁が非常に高い、②高付加価値である。そして、③模倣されない。

 この3つの特徴に魅力を感じたのは、手痛い経験が過去にあったからなのです。

インバウンドの来日動機のトップが、「日本の食」

 そして、日本の食には大きな注目が集まっています。2006年に日本にやってきた外国人観光客は700万人ほどでした。それが、2019年には3000万人超を記録しています。コロナ禍でいったんは急ブレーキがかかりましたが、これからはその反動もあって、爆発的なインバウンドの増加が見込めるはずです。

 そのインバウンドの来日動機のトップが、「日本の食」なのです。僕がキタノホテルでインターンシップをしていた1990年代は、日本食といえば寿司と天ぷらくらいの認識でした。日本食を食べることはメインストリームでもなんでもなかった。

 ところが今は、日本食を食べることが、ファッションでありモードになっている。ヘルシーさも注目されている。この10年の間に、本物の日本料理を食べに来る人たちが圧倒的に増えたのです。YouTubeなどの動画サービスでも、和食は大人気になっています。

ラーメンは今や、世界が認めるプロダクト、世界コンテンツ

 それこそ、1杯数百円のラーメンを食べるために、何十万円もの交通費をかけて日本にやってくる人たちだっているのです。ラーメンは今や、世界が認めるプロダクト、世界コンテンツになってしまっています。

 今後も、同じように日本発で、世界コンテンツになっていくものが出てくるでしょう。食には、まだまだ大きな可能性が潜んでいると思うのです。

 日本の飲食をグローバル化させることは、海外からまさに求められています。日本らしいもの、横丁文化のようなものを、例えばロサンゼルスに出したとしたら、大人気になると思います。でも、まだ誰もやっていないのです。

なぜ「道」にするとよくないのか?

 食を考えるとき、ひとつだけ注意をしなければいけないのは、日本人は考え過ぎてしまうことです。ひとつのことを徹底的に掘り下げて、学問のように「道」にする。この道には終わりがありません。

 例えば、ラーメンを語るときも、日本人だけで語っていると、どんどん難しいマニアックな話に入っていってしまう。「ラーメン道」になってしまうのです。寿司であれば「寿司道」、とにかく詳しくなければならない、となる。

 和牛もそうですが、「和牛道」のようなものになってしまいがちです。僕が読み進めていた書籍も「和牛道」をさらに深掘りする内容が山盛りでした。これが進んでいくと、どうなっていくのかというと、ビジネスを離れて、終わりがない世界に向かってしまうのです。それは、お客さまには理解されない、パーソナルな趣味になる可能性が高い。あくまでビジネスとして考えないといけないのです。

大事なことは、「自分自身に一人称での付加価値をつけていく」こと

 避けるためのひとつの方法は、グローバルな人間をパートナーに巻き込んでしまう、ということです。例えば、現地に住む外国人の実業家と組む。僕は海外展開では必ず主要都市で現地に住んでいる現地人のパートナーと組みます。日本人とは絶対組みません。そうすることで、日本人が陥りがちなマニアックな「道」に入っていかずに済むようになります。

 そして大事なことは、「自分自身に一人称での付加価値をつけていく」ことです。

 これからは、絶対的にパーソナルな時代がやってきます。YouTuberもそうでしょう、コンテンツの魅力はその人自身だったりします。このパーソナル化の時代に大切なことは、その人ならではの一人称の付加価値をシンプルに提示することです。なぜなら、一人称で存在感が出れば、その人以外に誰にも真似ができないから。

 これが、グローバル化する上では大切なポイントです。「この人が扱っている」ということ自体が価値を持つから。逆に言えば、扱うものに独自の価値を持たせるようにしていけばいいのです。

 食関連のビジネスに、自分の「付加価値」をつけていく。そんな意識で、発想してみるといいと思います。

(本原稿は、浜田寿人著ウルトラ・ニッチを抜粋、編集したものです)