人が次々辞めていく、上司と部下の会話がない、メンバーのモチベーションが上がらない――コロナ明け、チーム内コミュニケーションに悩んでいる人も多いかもしれない。そんな悩める人たちに話題となっているのが、北の達人コーポレーション(東証プライム上場)・木下勝寿社長の最新刊『チームX(エックス)――ストーリーで学ぶ1年で業績を13倍にしたチームのつくり方』。神田昌典氏は「世界的にみても極上レベルのビジネス書」と絶賛した。これまでのシリーズ『売上最小化、利益最大化の法則』は「20年に一冊の本」と人気会計士から評され、『時間最短化、成果最大化の法則』はニトリ・似鳥会長と食べチョク・秋元代表から「2022年に読んだおすすめ3選」に選抜。だが、その裏には「絶頂から奈落の底へ」そして「1年でチーム業績を13倍にした」という知られざるV字回復のドラマがあった。しかもその立役者はZ世代のリーダーたちだという。
そこで今回、本書からより深い学びを得ようと、インタビュー企画を実施。本書を読み解くのは、独自の目標実現法「行動イノベーション」アプローチで、キャリア構築・人材育成に携わってきた大平信孝氏だ。『やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ』(かんき出版)をはじめ、ベストセラー作家でもある大平氏は『チームX』をどう読み解いたのか。連載2回目は、「デキる管理職のコミュニケーションの取り方」について話を聞いた。(構成・川代紗生)
「ダメ出しばかりの職場」で育った若手社員の末路とは?
――管理職になると、「ここはもっとこうしたほうがいいよ」など、部下にダメ出しをしたり、指摘をしたり、時には叱ったりしなければならない場面もあると思います。
部下のモチベーションを下げずに指摘するには、どうしたらいいのでしょうか。
大平信孝(以下、大平):「部下のモチベーションを上げるのがうまい管理職」と「コミュニケーションを取っているのに相手のやる気を削いでしまう管理職」の違いは、ダメ出しする前に「できていることのコメント」をしているかどうか、が大きいと思います。
「よかれと思って」「部下に変わってほしいから」など、ダメなところを指摘する人は多いのですが、それが続くと、部下には「怒られないようにするためにはどうしたらいいか」という思考回路が根づきます。
そうなると、創造的な働き方から徐々にかけ離れ、新しいアイデアも生まれにくくなり、結果的に組織の柔軟性も失われます。
ダメなところを指摘してもいいのですが、その前にまず、できているところを言う。
書類作成、企画、営業、接客……。
どんな仕事にせよ、まずは「この部分は一定のレベルに達している」と伝えること。
その一方で、「この部分はまだ、こちらが求めるレベルに達していません」と事実をそのまま伝えるのです。
頭ごなしにダメ出しばかりしていると、相手の行動を「完全否定」しているように受け取られてしまいます。
ですが、「この部分はOK」という言い方をすれば、「完全否定」ではなく「部分否定」になり、ここを直せばOKなんだな、と、相手もポジティブに受け取りやすくなります。
退職を踏みとどまらせた「上司のひとこと」
――『チームX』にも、メンバー個々人のKPI設定の失敗例として、評価方法に「減点法」を取り入れたことで、成果がガクッと落ちた、というエピソードがありましたね。
“実際の数字は一緒だ。しかし、「減点」と言うか「加点」と言うかで、メンバーに与える印象は大きく変わってくる。(本書P87より)”
――ちょっとした言い方やルールの違いで、こんなにも大きな差が出るのかと、驚きました。
大平:そうなんですよね。ダメ出しの前に、できているところを先に言う。
それだけでそんなに印象が変わるのかと思うかもしれませんが、後々とても大きな違いになると思います。
以前、私の研修に来た方でも、成果が出なくて落ち込んでいたとき、上司のひとことで救われたことがある、という人がいました。
若手社員の頃、仕事がうまくいかず、「向いていないからもう辞めようかな」と本気で思っていた時期があったそうです。
そんなとき、上司との面談で、「君はこの部分とこの部分はできてるよ」とシンプルに言ってもらったことで、踏みとどまったと。
そのとき彼が言っていたことが印象的なのですが、「あ、ゼロじゃないんだ」と思ったそうなんです。
――ゼロじゃない。
大平:パッとした成果も出せていないので、「自分はダメダメだ」という烙印を自ら押してしまっていたそうです。
だからこそ、「こことここはできてるよ」と言われたことで、気持ちがラクになり、また、「ちゃんと見てくれてたんだ」という安心感も得られたと言っていました。
「そのひとことがなかったら辞めていたかもしれません」とも振り返っていましたね。
――自分のできていないところって、指摘されるよりも前に、自分自身が痛いほどわかっていたりしますよね。
だから、ただでさえ「自分はダメだ」と思っているところに、さらにダメ出しされると、「自分が会社に貢献できているところなんて、何もない」と思い込んでしまう。
大平:そうですね。ちょっとした日常のコミュニケーションの中でも、「あなたができているところはここだよ」とシンプルに伝えるって、ものすごい威力があると私は痛感しています。
『チームX』にも、少しの表現の違い、仕組みの違いで、ガラッと成果に差が出た、というケースが多くありました。
部下とどう接すればいいかわからないという管理職の方には、特に参考になるのではないでしょうか