わが国半導体産業復活のラスト・チャンス
わが国は、世界トップクラスの半導体産業を育成し、中長期的な景気の回復につなげるラスト・チャンスを迎えているといえる。TSMCの直接投資によって、国内の半導体産業の製造技術開発は加速する。TSMCの意思決定は早い。わが国の半導体製造装置メーカーやシリコンウエハーなどの部材メーカーは、TSMCの要請に対して研究開発体制を強化するだろう。
それは、国内半導体関連産業の国際競争力向上にメリットをもたらす。サプライヤーの製造技術向上は、ラピダスにもプラスに働く可能性がある。内外企業との連携を強化し、ラピダスが世界トップクラスのファウンドリーとして高成長を実現する環境が徐々に整う。
ラピダスにとって、半導体の回路構造が変わることも重要だ。回路線幅が3ナノメートルよりも微細なチップの製造技術は、「3次元フィンフェット構造」と呼ばれるものから、「ゲート・オール・アラウンド」(GAA)に変わる。1ナノレベルは、「フォークシート構造」など、より多くの電極を持つ電流制御能力の高い構造に移行する。
過去の製造技術が、次世代チップの製造に有利に働く保証はない。むしろ、過去の成功体験や生産ラインの維持が、新しい技術実装の遅れにつながる可能性がある。一方で、わが国の半導体産業が競争力を失ったから、今後も成長は難しいとのロジックも適切ではない。
注目すべきは、共同パートナーを増やし、新しい製造技術をいち早く実装できるか否かだ。ラピダスは、IBMやimec(ベルギー)など先端チップの研究組織や、ASMLといったサプライヤーとの関係を強化している。
TSMCがスピーディーに最先端チップの量産を目指し、それに負けないようにとラピダスも製造技術を磨く――。こうした展開は今後、鮮明になりそうだ。競争原理が発揮され、在来分野から最先端チップなど成長期待の高い分野へ“ヒト、モノ、カネ”の再配分が勢いづくはずだ。
こうした結果、わが国の半導体産業が世界トップレベルの地位を手に入れることに期待したい。TSMCによる熊本第2工場の発表は、わが国の産業構造のダイナミックな変化につながる大きな可能性を秘めている。