サスペンションのストローク量に応じてスプリングレートが変化するバリアブルレートは、一見したところ、乗り心地とハンドリングのバランスをとるうえで好都合のように思える。ところが、スプリングレートの低い領域は、車両の自重でサスペンションが沈み込むため基本的には伸び側でしか活用できない。縮み側は最初から高いスプリングレートになりかねない点がバリアブルレートの宿命だ。

 しかし、ここでサスペンションスプリングをシングルレートに置き換えるとともに、自重を支えられるギリギリの柔らかさにスプリングレートを設定すれば、路面の凹凸を乗り越える際にもバリアブルレートより柔らかい領域でショックを吸収できる可能性が生まれる。750Sの基本的な乗り心地のよさは、こうして生み出されたものだと推測している。

 一方で、750Sは720Sに比べて路面の凹凸によってノーズがヒョコヒョコと動く傾向が強まった。これもシングルレートの採用と何らかの関係があるはずだが、720Sのウルトラフラットな乗り心地よりも、穏やかな上下動が起きる750Sの乗り心地のほうが自然と感じるドライバーは少なくないだろう。しかも、ヒョコヒョコとした動きは極めて小さい。基本的に乗り心地が快適なことには変わりない。

 もっとも、750Sでさらに驚くべきは、乗り心地が劇的に進化しているにもかかわらず、サーキットでのパフォーマンスが、むしろ向上していたことにあった。

なかなか限界が訪れない圧倒的なポテンシャル
750ps新エンジンは高回転域で一段と野獣に変身する

 サーキット試乗の舞台はエストリル。中低速コーナーがバランスよく揃ったコースである。本来であればタイヤの限界まで追い込むのはさほど難しくない。だが750Sの場合は、なかなかそこまで到達できなかった。イタリアのヴァレルンガ・サーキットで国際試乗会が行われた720Sのときは、いとも簡単に限界に到達したことを考えると、まさに隔世の感がある。

 結果的に、サーキット試乗の最後の時間帯にようやくタイヤの限界まで到達し、スタビリティ・コントロールが介入する感触をつかんだ。とはいえ時すでに遅しで、スライド時のハンドリング特性やコントロール性を明確に把握するまでには至らなかった。私は2023年の下半期に入ってから、すでに1000psオーバーのスーパースポーツ2台をサーキットで走らせた経験がある。だがタイヤの限界までなかなか到達できなかったのは750Sが初めて。それだけ750Sの限界性能は際だって高いといえる。