これからの企業に求められること
同じく2016年に掲げられた「一億総活躍社会を実現するための働き方改革」や、コロナ禍で在宅勤務が普及して以降、業界によってはフレキシブルな勤務形態を取り入れるところも増えています。しかし日本経済の土台を支えてきた製造業などは、多くの企業が従来通り“9時5時”(+残業)の勤務形態であり、その半面、高度な技術を持つ熟練社員を簡単には手放すことができない事情があります。介護休業制度とは別に、仮に親に何かがあったとしても職場を離れなくて済む労務インフラを整備することが、こうした企業にとっては急務ではないでしょうか。
このままビジネスケアラーが増えていけば、株主総会で「当社のビジネスケアラー対策はどうなっていますか?」という質問が飛び交う時代が近々やって来るかもしれません。介護を始めとする老親問題全般をカバーするワンストップサービスに加え、必要に応じてコンシェルジュのように実務代行まで担ってくれる……。そうしたオプションがあれば、社員満足だけでなく、企業イメージをアップさせることも可能ではないでしょうか。
私の会社では新しい取り組みとして、社員数1000人規模の某メーカーから、介護・医療・終活のオンライン相談サービスを受託しています(参考記事)。社員に加え、配偶者、子、双方の親を対象に、どんな相談にも応じるし、実務代行にも対応する福利厚生施策です。結果として、社員がどんな事態になっても、まとめて休んだり離職したりしなくていいようになっています。さらに、介護問題の解決だけでなく、社員の親に老い先に備えてもらうための啓発と実践指導までカバーしています。人事部門のポータルサイトには、すでに約100本のコンテンツを搭載し、離れて暮らす親御さんたちも閲覧できるようにしてあります。今後はリアル講座も開催していく予定です。
昨年の利用状況は、月間相談件数が20件。うち9割が終活や認知症予防などの情報収集で、残りが介護・医療・財産まわりの具体的な問題の解決でした。コンタクトしてきたのは、社員本人と家族が半々。曜日&時間帯も、土日祝日夜間と平日の日中(9時~17時)が半々です。
こうした受託サービスの評価ポイントはいろいろありますが、大企業が委託している損保系や介護系の外部相談窓口との決定的な違いが二つあります。一つが前述の実務代行。もう一つが、メジャーなOB会(慶應三田会、筑駒・若葉会)とのネットワークにより、医療や法律など幅広い専門家集団が存在することです。
ビジネスケアラーの皆さんはもちろんですが、多くの社員とその家族を抱える企業の人事・労務部門の皆さんにも、本当の意味で社員と家族を守る会社を目指し、他社に先がけて介護離職ゼロを実現してほしいと願っています。