さりげなく、「ちょうど良い気づかい」のできる人にはあこがれる。しかし、「ちょうど良い気づかい」の塩梅が難しいと思ったことはないだろうか。相手のためを思ってやったことでも、「余計なおせっかい」になることもある。そんな不安を持つ人にぜひ読んでもらいたいのが『気づかいの壁』だ。これまでおよそ200社、2万人のビジネスパーソンに向けてコミュニケーションスキル等の研修やセミナーを行ってきた著者、川原礼子氏は、サービスのプロではない一般のビジネスパーソンに向けて「ちょうど良い気づかい」のコツを教えてくれている。
本記事では、本書の内容をもとに、「迷惑かもしれないし」と迷ってしまって行動できない人が「気づかいできる人」になることができる考え方について紹介する。(構成:小川晶子)

気づかいの壁Photo: Adobe Stock

気がつくだけの「気の利かない人」

 突然だが、職場の入り口あたりで見たことない人がウロウロしているのに遭遇したとき、あなたはどうするか考えてみてほしい。

①たぶん気づかない
②すぐに声をかける
③気づくけど、特に何もしない(P.4)

 この問いは本書の冒頭に出てくる。筆者は③と答えた。

「あっ、大丈夫かな。誰かと待ち合わせかな? そうだったら、声をかけても気まずいかもしれないし…。困ったらきっと声をかけてくれるよね。だから、まぁ、いいか」

 心の中でそんなふうに喋りながら通り過ぎる気がする。

 そして、しばらくしてから「あの人、大丈夫だったかな?」などと考える。

 そんなに気になるなら、あのときパっと声をかければよかったではないかと自分でも思うのだが、瞬発力がなくてこういうことになる。

それって、相手からすると、「気が利かないな……」と思われ、①の鈍感な人と同じに見られても仕方ないんですよね。
でも、せっかく「気がつく人」なのですから、その素質を存分に活かし、「気が利く人」に変わりたいと思いませんか?(P.5-6)

 はっとさせられた。

 気づかいの素敵な人は「もともと神経が細やか」で、自分自身はそれを持ち合わせていないのだと思い込んでいたが、そうではないのだ。

 問題はとっさに「余計なおせっかいだと思われたらどうしよう」という気持ちを乗り越えられないこと。うまく乗り越えることができれば、自分も「気の利く人」になれるのかもしれない。

気づかいの前には2つの壁がある

 本書の著者である川原礼子氏は、気づかいの前には2つの壁があるという。「自分の心の壁」と「相手の心の壁」だ。

「余計なおせっかいだと思われたらどうしよう」というのは「自分の心の壁」。こちらは、ぜひ越えたい壁である。

 一方、「相手の心の壁」は越えない方がいい壁。自分の心の壁を突破して、ガンガン踏み込もうとすればそれはやはり困ったことになる。

「相手の領域に踏み入らない」「やりすぎない」「引き際を知る」というのも気づかいだ。この2つの壁を意識すると、ちょうどいい距離感の気づかいができる。

 これはとてもイメージしやすい。

 では、どうやって「自分の心の壁」を越え、「相手の心の壁」を越えないようにするのか。川原氏は、これまたわかりやすい基準を教えてくれている。

それは、その気づかいの教えに、「自分がされて嬉しかった経験があるかどうか」を思い起こすことです。(P.31)

 たとえば、本書の中にある気づかいの一つに「リマインドで『誤解されるポイント』を押さえる」というものがある。

 これを読んで、「リマインドメールは送ったほうがいいんだな」とすぐに実行するのではなく、「そういえば、あのときリマインドメールをもらって助かったなぁ」などと「自分がされて嬉しかった経験」を思い出すのである。

 筆者も、しばらく前にZOOMでのミーティングの日程を入れていたが、前日に「明日10時からよろしくお願いいたします。こちらのリンクからお入りください」とリマインドメールをいただき、嬉しく思ったときのことを思い出した。

 数日前に入った予定ならいいのだが、1週間以上前にもらったメールは探すのにやや時間がかかる。自分の記憶にも自信がなく「あれ、明日だっけ?」と不安になることも……。それが、こうしてリマインドをいただけるととても安心する。

 ちょっとしたことのようだが、こういった気づかいが積み重なって大きな信頼になっていると感じる。自分もぜひやろうと思った。

 逆に、「自分がされて嬉しかった経験」が思い起こされず、ぴんとこない「気づかい」は実行しなくてかまわないという。

「自分がされて嬉しかった経験」を書き出してみよう

 こうして自分自身の判断軸ができれば、自分の心の壁を越えられるようになる。かつ、相手の壁には踏み込まない、ちょうどいい気づかいができるようになるのだ。

あなたのこれまでの人生で、あなたの中には、たくさんの人からの「気づかい」がストックされているはずです。
これまで社会人として成長してこられていたり、環境や人間関係に恵まれていたりするのであれば、なおさらです。
たくさんの先輩や外部の関係者の方から、気づかいをされてきているはずです。
今度は、そのストックを思い起こし、1つ1つ、考えながら、後輩や部下、これから出会う人たちにお返ししていく番です。(P.32-33)

 これを読んで、筆者は「自分がされて嬉しかった経験」を書き出してみた。あっというまに数十の経験が思い起こされ、ありがたい気持ちになった。

 このストックを判断軸にしてお返ししていこう……と思うと、なんだかとてもハッピーな気分である。

「気づかいできる人にならなきゃ」ではなく「気づかいしていただいたことをお返ししていきたい」と思えるのが本書の素晴らしさだ。

 ぜひ本書のアドバイスとあなた自身の経験とを照らし合わせながら、「気づかいの判断軸」を作ってみてほしい。