遠藤 連載開始時にコメント等でそのタイトルを結構言われたんですけど、見たことないんですよね……(笑)。連載までの準備期間もあまりなかったし、コメディ作品なのでそこまで深く設定にこだわることもないか、と思いながら描いてました。本で得た知識も盛り込みつつ、でも漫画だから「そりゃありえないだろ」みたいな外連味も残しつつ。

勝丸 リアルな描写とエンタメ性のバランスが本当に良いなと感じます。スパイは日常生活に溶け込んでいて、中には『SPY×FAMILY』と同じく「偽装家族」を築く者もいるんです。夫がスパイだと気づかないまま、夫婦生活が送られていたというケースも実際にあります。

『SPY×FAMILY』作者に聞く「漫画だからできること、アニメではできないこと」『SPY×FAMILY 1』より抜粋

遠藤 僕が一番気をつけているのは、そのバランスですね。「最低限のリアリティ」を場面ごとに見極める作業というか。

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漫画とアニメの大きな違い

勝丸 遠藤先生は、「現実と漫画の乖離」は、どのくらい気にされていますか?

遠藤 難しいところですね。ケースバイケースですが、漫画だと「ここのリアリティはとりあえずごまかしておこう」とするところも結構多くて。1人だとあれこれ調べるのにも時間が足りないですしね。でもアニメだと細かい設定を作らなくてはならず、ごまかす「余地」があまりないというか。アニメチームに「ここどうなってるんですか?」って聞かれて、「すみません考えてないです…。」ということが結構あります(笑)。

勝丸 場面や時代の設定は厳密には決めていないのですか?

遠藤 時代設定は何となく1960~1970年代くらいのイメージです。「この技術ならギリギリありかな」とか探り探りで描いてますね。政治形態などのリアリティもふんわりさせてます。東西冷戦がモチーフの一部になってますが、読者にそのまま「イデオロギーの対立です」と言ってもピンとこない。なので、あくまで漫画として分かりやすい形に落とし込んでます。僕が無知な部分もありますし。同じように、たとえば現実世界のスパイは横の繋がりなんて、たぶんほとんどありませんよね?保安上の理由で。でも、漫画としてはストーリーを展開させるためにスパイ同士の会話も描かなくてはいけなくて。コメディ作品なのでなおさら、会話なしでは成立しないので。その塩梅が難しいですね。