これによると、たとえば「大学卒・1年目の離職」は2007年から2022年までおおむね11~13%を推移していて、「Z世代だから目立って離職率が高い」と断言できるような有意性ある数字が認められないのであった。むしろ15%以上で推移した2000~2005年の方が目立って高い。

 つまり「Z世代だから仕事を辞めやすい」は、おおかた印象や思い込みから出てきた言説であって、事実を正確に言い表したものではないようである。

 とはいえ、上の世代がZ世代と相対するとき、世代間の価値観の違いから戸惑いを覚えているのは事実であろう。昭和にあった「1つの会社に一生奉公」という価値観は今ではあまりスタンダードではない。仕事や会社に関するパラダイムシフトが確実に行われてきているので、両者お互いの価値観にリスペクトを払いつつ、柔軟に向き合っていければ理想的である。

 なお筆者の感想だが、Z世代に見られるポジティブな特徴として「他者に繊細な気配りをしようとする」「言葉選びや伝え方がうまい」を指摘しておきたい。前者は子どもに「やさしい」社会が育んだ成果であろうか。後者は、作文が本職の筆者から見ても感心させられることが多々ある。メールやLINE、SNSなど、文字で何かを伝えようとする機会が筆者たちの世代より多く、伝達スキルが磨かれているからかもしれない。

ある程度のストレスも
必要なものとして取り入れる

 さて、子どもに「やさしい」社会になってきているのは先に述べた通りである。ときに「教育」の名を借りた大人から子どもへの理不尽なハラスメントが見直され、減ってきているのは間違いなく歓迎すべき傾向である。あとは、子どもへのやさしさのあり方、すなわち子どもへの負荷・負担をどう考えるかという問題である。

 人間が健康に生きていくためにある程度のストレスが必要とされるらしいことは周知の通りで、子どももそれは同様である。むしろ子どもの場合は、ストレスがもう一段階有意義な体験になりえる。ストレスを経験することによって、ストレスへの耐性や、困難な状況を自ら解決していく力を育める可能性があるからである。

 こうした考え方は発達心理学等の専門家が指摘していて、現場で子育て・教育に当たる保護者としてはぜひ肝に銘じておきたく思うのだが、やはりどうあっても「やさしさ」と「甘やかし」の境界線の設定は難しい。ひとつの定型を正解と定めて、それでゴリ押していけるような種類のものでもないので、子どもの性格や状況を見ながら、その時どきで判断していくしか方策がない。

 時代によって良しとされるものが変わるから、正解(とされるもの)が変わっていくのも子育て・教育の特徴であろうか。肝要なのはひとつの着眼点に固執しない柔軟性であり、それが施す方・施される方両者にケアしている有益なあり方だと感じられる昨今である。