新規事業の成功確率を上げる
イノベーションプロセスのカギ

 そもそも新規事業の成功率は、なぜこれほどまでに低いのだろうか。それは新規事業開発・立ち上げの難しさは、重層的な不確実性(顧客ニーズの不確実性、競争環境の不確実性、マクロ環境の不確実性等)を孕んでいるという点にある。

 重層的な不確実性をマネージするためには、新規事業という生き物の性質を深く理解し、ノウハウに落とし込みながら取り組む必要がある。しかし現実には「なんとなく適当にやってしまっている」会社が多い。

 実際、ソニーによる調査によると、新規事業における課題として「具体的な新規事業を推進するノウハウが不足」と「新規事業を生む組織の運営ノウハウが不足」の2つが最も高い回答率として指摘されている。

 したがって、新規事業の成功確率を上げるためには、イノベーションを生み出すプロセスの変革がポイントになる。特に、令和の時代においては、デジタルを活用したプロセスの変革、すなわちイノベーションプロセスのDXが有効だ。

 野球に例えてみよう。これまで多くの会社のやり方は、勘と経験に基づき、やみくもに素振りをし(あるいは、素振りもせず)バッターボックスに立ち、速球投手と対峙するというものだ。これではヒットは打てない。

 これに対し、筆者が提言するイノベーションプロセスのDXとは、相手ピッチャーの過去の投球傾向、自身のバッティングフォーム、過去の対戦成績などをデータ化し、それらのデータを眺めながら科学的な練習を行い、満を持して打席に立つというやり方だ。現代のプロ野球選手が当然のようにやっていることを、新規事業・イノベーションの領域にも持ち込もうという提案である。

 換言すれば、流行りのDXを、現状手薄な「イノベーション」の「プロセス」に持ち込むというものだ(図表1)。

 具体的には、新規事業の成功確率を左右するファクターを押さえ、デジタル化し、データに基づき新規事業開発のマネジメントを行う。

 たとえば、「新規事業アイデアの筋の良し悪し」や「新規事業に取り組む人材の向き不向き」は、新規事業の成功確率に直結するファクターだ。このため新規事業アイデアの筋や社内人材の新規事業適性を可能な限りデータ化し、それらのデータを踏まえてアイデアのピックアップや人材のアサインを行うというイメージだ。