機嫌がいい人は「ドライでいい」と知っている──。そう語るのは、70歳のプロダクトデザイナー・秋田道夫さんです。誰もが街中でみかけるLED式薄型信号機や、交通系ICカードのチャージ機、虎ノ門ヒルズのセキュリティーゲートなどの公共機器をデザインしてきた秋田さんは、人生を豊かに生きるためには、「機嫌よくいること」「情緒が安定していること」が欠かせないと語ります。
そんな秋田さんの「まわりに左右されないシンプルな考え方」をまとめた書籍『機嫌のデザイン』は、発売直後に重版と話題を呼び、「いつも他人と比べてしまう」「このままでいいのか、と焦る」「いつまでたっても自信が持てない」など、仕事や人生に悩む読者から、多くの反響を呼んでいます。悩んでしまった時、どう考えればいいのでしょうか。本連載では、そんな本書から、「毎日を機嫌よく生きるためのヒント」を学びます。今回のテーマは、「年齢を重ねても仕事が絶えず、活躍し続けるために必要なこと」について学びます。(構成:川代紗生)
30代以降「ぐんと成長する人」がやっていることとは?
この先どうなるかわからない、めまぐるしく変化していく現代。
「このまま同じ仕事を続けていて、生き残っていけるのだろうか」と不安になっている人も多いのではないだろうか。
30代になってから、どんどん誤魔化しが効かなくなってきた──。同世代の知人から、そんな声を聞くことが、最近、ぐんと増えた。
失敗しても「若いから、まだまだこれからだよ」と許されていたこと。それが、だんだん許されなくなってきて、自分の実力をシビアに見られるようになったと感じることが、30代になって以降、圧倒的に増えたのだという。
年齢を重ねて、その後、ぐんと仕事の幅を広げる人。成長スピードががくんと落ちてしまい、30代半ばごろから、伸び悩んでしまう人。
その差はいったいどこで生まれるのだろうか。
もちろん、「こうすれば生き残れる」という絶対的な正解はないが、まずは、先人の知恵を借りてみたいと思う。
「年齢を重ねても仕事が絶えず、活躍できる人」の共通点
昨年発売された『機嫌のデザイン』は、発売5日で重版、その後も版を重ねている話題のロングセラーで、著者はプロダクトデザイナーの秋田道夫さんだ。
駅にある、交通系ICカードのチャージ機や、街中にある「LED式薄型信号機」などのデザインを手がけた人である。そう、私たちの生活は、秋田さんのデザインによって支えられているのだ。
さらに注目するべきなのは、秋田さんは70歳の現在も、現役のデザイナーとしてさまざまな仕事を手がけているということだ。フリーランスで活動しているが、仕事の依頼が絶えたことはないという。
さて、そんな秋田さんは、「年齢を重ねても仕事が絶えず、活躍できる人」になるために必要なこととは? という質問に、本書の中で、こう答えている。
おかげで長く仕事をさせていただいている会社もあって、付き合いが続くのはとてもありがたいことですね。(P.144)
「情緒の安定」は、本書の背骨となる重要なワードでもある。タイトルにも「機嫌のデザイン」とあるように、「機嫌よくいること」の大切さが繰り返し語られている。
機嫌を保つために重要な1つのこと
秋田さんの言葉には、手帳に書き記しておいて、道に迷ったときに唱えたくなるような、「おまじない」のような言葉が多いのだが、中でも、この表現が私は好きだ。
「機嫌よくしなければ」と思うと、つい、前向きになろうとか、気持ちを切り替えようとか、そんなふうに、「自分の心を理性でコントロールする」ようなイメージを抱いてしまう。
けれど、秋田さんによれば、無理に明るく振る舞ったり、ポジティブな考え方をしたりする必要もない。機嫌を保つためにもっとも肝心なのは、「まわりにも、自分にも期待しない」ことだという。
こちらから「おはようございます」と挨拶をしてみて、気持ちよい挨拶が返ってくるのか、まったく無言で何も返ってこないのか。この違いによって、どのくらいの距離を保つべきなのかの目安がつかめます。すると、余計な擦れがなくなる。
「摩擦を生まない」というのは、機嫌を保つうえで大切です。(P.22-23)
「機嫌のよさ」は武器になる
本書を最後まで読んでみて、つくづく感じたのは、「機嫌のよさ」とは、ビジネススキルにも勝るアドバンテージではないか、ということだった。
たとえば私は、情緒が安定せず、イライラして仕事が手につかなかったせいで、やりたい仕事を諦めざるを得なかった──ということが、何度かあった。
本当にやりたい仕事にチャレンジできるチャンスをもらったのに、集中力ががくんと落ちてしまい、スムーズに進まなかったのだ。結果として、他の人に任せることになってしまった。
どんなに素晴らしいスキルを持っていたとしても、結局のところ、自分の機嫌を自分でとることができなければ、肝心なところでチャンスをみすみす逃してしまう。
仕事や生活を、機嫌よく維持するために必要なこととして、秋田さんはこんなことを心がけているという。
ちょっと嫌だな、疲れるなと感じたら、そこから離れます。それは場所に対してもそうですし、人に対しても同じです。(中略)
わたしに限らず人は環境に影響を受ける生き物ですから、周囲に対して敏感であることは非常に大事なことだと思っています。(P.25-26)
浮き沈みがなく、安定したパフォーマンスを出す。目立つことはなくとも、豊かな心を保ち、いつも穏やかに働く。
人生100年時代、何歳まで働かなければならないのか、もはや予想もつかない今、「機嫌のよさ」は、何よりも強い武器になるかもしれないと、本書を読んで痛感した。
(本記事は『機嫌のデザイン』より一部を引用して解説しています)