歩道橋から車の流れを眺め、タクシーの運転手さんに道を聞く日々

 楽しいながらも、やっぱり身体がカチコチになってしまうほど緊張する教習が終われば、先ほど身をこわばらせて通過した近所の交差点は、眺め放題。この頃、大きな歩道橋を登っては、車と信号の関係を眺めていた。周囲にはだいぶ変な人だと思われたに違いないが、俯瞰して交差点の交通ルールが分かってよかった。

 また、道を覚えたくて、あえてタクシーに乗ることもした。その際、「次回この道を自分で運転しなくてはならないので、道を見ていていいですか?」などというと、驚くほどすべての運転手さんが親切に、快諾しいろいろ教えてくれた。

 東京の道路を俯瞰で見られるよう話して聞かせてくれる人、都内の混雑の回避の仕方を説明してくれる人、首都高の乗り口の成り立ちを教えてくれる人、街中で標識の復習をさせてくれる人……中には私がタクシードライバーになりたいのだと勘違いしている人もいらしたが、数名のタクシー運転手さんに随分と優しくしてもらえた。

みるみる見えてくる標識、聴こえてくるカーナビ

 段階を踏んで気持ちが落ち着いていくにつれて、だんだんといろいろなものが、見えるように、聴こえるようになっていった。

 初回、車を動かしただけだった時は、どこを走っているのかすら分からない状態であったし、道路に書いてある文字が目に入らなかった。カーナビの音も情報として認知できず役に立たず、カーナビの位置に目をやることもできない。これはおそらく、どのタイミングであれば、目をやっても安全なのか分からないためだったと思う。それが2〜3回、コーチについてもらい、それぞれ150分程度運転をすると、緊張はするものの標識、ミラー、カーナビなどを、見られるようになってくる。

 このあたりは、個々人の情報処理能力のようなものが関係しているように思えた。運転を長くしている人に話しを聞いても「疲れているときは車内、車外の情報を処理しきれないためか、普段よりも快適だと感じるスピードが遅くなっている時があったりする」と聞く。

 また、「運動神経がいい・悪い」から「運転を覚えるのが、早い・遅い」などという話しもたまに聞く。

 たくさんの人に教えているコーチ曰く、「運動神経と関係があるかはわかりませんが、免許をもっているペーパードライバーで、比較的早く運転が再開できる人のタイプについては、『運転を怖がらないで自分でも早めに数をこなせる方、あとは女性に多いのですが、スピードを怖がってしまうとすこし時間がかかることがあるので、スピードに早めに慣れることができる方』」と話していた。その他、教習で言われたことを素直に聞くというのも大切のようだ。

 この日の教習は、夕方だった。多くの所で、朝、昼、夕方と3つの時間帯で予約を受け付けているようで、運転のしやすさだけで言えば明るい時間がラクであるが、いわずもがな夜の運転もしなければならないことがある。つまり、怖いからこそ「夜の運転」もあえて講習に入れておくことがおすすめだ。やはりライトというものがあるだけで、感覚が変わるし、何よりペーパードライバーにはライトのつけ方さえ分からない。間違えてワイパーを動かしてしまったり、しまいには水まで出してしまったりしながら、ライトのつけ方を教わる。このころには、コーチとはすっかり仲良くなっていて、「大丈夫、あるあるです!!」と励まされた。

 この日は、皇居の周りなども走ったが、右折だけ4つもでてくる標識にコーチも大笑い。「都心ってこういうのがあるから、自分が使いやすいカーナビを設置したり、事前に調べたりしておかないと本当に難しいです」と、「戸惑うのが普通である」いう事実に励まされた。

 それを証明するかのように、目の前で、地方ナンバーをつけているタクシーが急な車線変更するのを見て「職業として運転をしている方でもこういうことが起こるのが都心なのでお互い様だし、結構間違えてしまって無理に入ってこようとする車もあるので気を付けてくださいねと」アドバイスをもらう。

 車の操作だけ習うのとはまた少し違う、事実ベースの超実践編の教習。偏りのない運転コーチの反応からも学ぶことがあると思った。

 教習の終盤、外はすっかり暗くなって東京タワーが見えてきた。

 ふと、子どもの頃、東京タワーを見ながら運転をするような大人になりたいなぁと思っていたことを思い出す。すっかり心を許したコーチにそのままつぶやくと、「まさに、今じゃないですか、良かったですね!」と言ってもらえた。運転はまだまだ下手だけれど、都心を自分で移動したという実感がもてた教習2回目。

 初回のおためしの時には萎縮してしまうと思ってなのか、言わないでくれた私の運転のくせもこの頃からは教えてくれて、将来の事故を防止するのに役にたったと思える。こうしたコーチの配慮も、なんだか語学学習の二人三脚と似ていると感じた。

 次回はとうとう、首都高を使い、千葉県にある房総半島へ。その他、運転スキル以外にペーパードライバーに立ちはだかる壁についても触れていく。怖くてワクワクの運転教習3回目、首都高編。

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