蕭美琴副総統は、戦狼ならぬ「戦猫」外交

 蔡英文前総統は、かつて総統官邸で、2匹の猫(蔡想想・蔡阿才)と5匹の犬(Maru・Bella・Bunny・楽楽・旺来:うち3匹は引退した盲導犬、Bellaは他界)と暮らしていた。頼清徳総統が官邸でペットを飼うか否かは不明だが、蕭美琴副総統は、蔡前総統と同じく猫好きで知られる。2020年から3年間の駐米台北経済文化代表処代表(駐米大使に相当)時代、4匹の猫と共に過ごしていた。蔡前総統の犬や猫、蕭副総統の猫はすべて、拾ったか譲り受けたかしたものばかりで、決してブリーダーから購入したものではないことが台湾社会では知られている。

 蕭副総統は、キリスト教プロテスタントの牧師の父親とアメリカ人の母の下、父親の仕事の関係で日本の神戸市で生まれ、主に台湾とアメリカで育ち、アメリカの高校・大学に通っていた。1995年に民進党員になり、2002年に在外華僑枠の比例区で立法委員(国会議員に相当)に際し、アメリカ国籍を放棄し台湾籍となった。その後、2015年の台湾の花蓮県選挙区立法委員時代から飼っていた猫は、2020年よりアメリカ勤務の際に一緒に移り住み、昨年2023年台湾総統選の副総統候補立候補のため、共に台湾に戻った。蕭氏がこの猫たちを空港に引き取りに行った際の映像がニュースになるほど、蕭氏も猫たちも注目度は高かった。

 4匹の猫の名前は、Princess、阿花、Tiger、Fluffyでそれぞれに意味があって付けた名前のようだ。公式YouTube動画サイトでの蕭氏へのインタビューでも、そのことに触れている。

 そんな猫好きの蕭美琴副総統は、駐米時代に、自分は「戦う狼」(戦狼外交、中国の攻撃的な外交姿勢のこと)と称されたが、それを自ら「戦う猫」であると言い換えた。インタビューの中でその理由として、(1)猫にはバランス感覚がある、(2)猫は狭いスペースを潜り抜ける、(3)猫には9つの命がある(独特な生存能力と治癒能力がある例え)という3つを挙げていた。

 確かに、立法院時代の質疑やアメリカ駐在時代での行動を見ていると、戦う姿勢を崩さない蕭美琴副総統の方が、頼清徳新総統よりも一般市民からの評価は高く将来性があると見込まれているようだ。これは、蕭氏自身も自覚しているように、サバイバルに強い面があるからだろうか。

選挙事務所で提供された応援グッズ選挙事務所で提供された応援グッズ。小さな丸いバッジは、蕭美琴氏をイメージして、「戦う狼」と「戦う猫」をキャラクター化したデザイン(筆者撮影)

 頼清徳総統は、新政権発足後の人材確保を見据えてか、「国内の人材を育成することは容易なことではなく、民主主義国家の人材には新旧の区別はない。優秀な人材には引き続き国と社会に貢献していただく」と語っている。

 新総統・副総統の就任式が行われた翌21日には国会が再開された。過去の記事でも述べたとおり、台湾の立法院(日本の国会に相当)は与党よりも野党のほうが議席数が多い、いわゆる「ねじれ国会」状態にある。また、立法院長は野党・国民党の韓国瑜氏が担っている。冒頭で紹介した、内容が公表されぬまま可決した「ブラックボックス法案」について与野党の攻防は続いている。立法院長として立法院の混乱を制御できない国民党の韓氏は、国民党内からも非難の矛先となっている。まだまだ台湾の政局は目が離せない展開が続きそうだ。