祇王寺祇王寺(右京区)では、境内で見られる苔について解説する「苔棚」も必見

嵐電に乗って風光明媚な「青もみじ」を

 最後は、始発駅「四条大宮」から終点「嵐山」駅まで24分と意外に近い、西へ向かう「嵐電(らんでん)」に乗りましょう。「西大路三条」駅から「帷子ノ辻(かたびらのつじ)」駅にかけては、京都で唯一残る路面電車区間。コトコト揺られてレトロな風情を楽しみながら、「鹿王院(ろくおういん)」駅で降ります。

 歩いて3分、閑静な住宅地の中にたたずむ「鹿王院」は、臨済宗の京都五山に次ぐ十刹(じっせつ)に列する禅寺で、室町幕府3代将軍の足利義満が、延命長寿を願って建立しました。義満筆による扁額「覺雄山」が掲げられた山門から中門にかけての石畳の参道は、昨年秋整備された竹林と「青もみじ」のプロムナード。そぞろ歩きにぴったりな、凜としたたたずまいの小道です。

 2駅先の終点「嵐山」駅を降りたら、サラサラと葉擦れの音を奏でる竹林の小道を抜け、小倉山の中腹に堂宇を構える「常寂光寺」を訪ねましょう。慶長年間(1596~1614)、日蓮宗の日禛上人により開創。豊臣秀吉の正室ねね(高台院)のおいに当たり、秀吉の養子として育てられた小早川秀秋の援助を得て、伏見城の客殿を移築して本殿が造営されました。

 石段の上から見下ろす仁王門や、多宝塔付近の他、平安末期から鎌倉時代の歌人であり『新古今和歌集』や『小倉百人一首』を編んだ藤原定家の山荘「時雨亭」跡と伝わる庭園が「青もみじ」の見どころ。和歌の心得がなくても、思わず一句詠んでみたくなる趣深い光景が待ち受けています。

 続いては、常寂光寺から5分ほどの「二尊院」へ。平安初期、第52代嵯峨天皇の命により慈覚大師円仁が開創しました。極楽への往生を願う人をあの世へと送り出す「釈迦如来」と、極楽浄土へ迎え入れる「阿弥陀如来」の二尊を本尊とすることが寺名の由来。今年、浄土宗開宗850年で注目される法然上人が、常行念仏堂として弟子たちに仏の教えを伝えた地でもあります。総門から本堂へ約150mにわたり、桜とカエデの並木が続く参道は、「紅葉の馬場」と称されます。この時期は「青もみじ」に導かれ、二尊と対峙(たいじ)しましょう。

 二尊院から北へ5分歩くと、「祇王寺」にたどり着きます。『平家物語』の中で平清盛にかわいがられた白拍子の祇王が、清盛の愛を失って世の無常を感じ、母と妹と共に出家して庵を建てて隠居したのがここ祇王寺です。祇王の恋敵だった白拍子の仏御前も後に出家し、4人の女性が念仏を唱えながら静かな余生を過ごしました。

 ここは、20~30種類もの苔が潤む庭に、降り積もる散りもみじの名所として知られています。今の季節、足元は一面の苔のじゅうたん、見上げれば「青もみじ」と、視界が清涼な緑色に覆い尽くされます。草庵の内部には、祇王ら5人の木像が安置された仏間や、緑の葉が丸窓の障子にさまざまな色彩を映し出すことから「虹の窓」と称される吉野窓もあります。静かに心に染み入る無常感に浸りましょう。

二尊院二尊院(右京区)の「紅葉の馬場」。小倉山の借景と相まって、一面緑があふれています
【本文で紹介した名所ほか関連リンク集】
永観堂(禅林寺) 日向大神宮  叡山電車「一条寺」駅 詩仙堂 圓光寺 叡山電車「三宅八幡」駅 蓮華寺 もみじのトンネル(叡山電車) 嵐電「鹿王院」「嵐山」駅(京福電鉄) 鹿王院  常寂光寺 二尊院 祇王寺 ※( )は遷移先のページ