「青もみじ」に囲まれた叡山電車で洛北へ
次は洛北へ。「えいでん」こと叡山電車に乗って「一乗寺」駅下車、住宅街の坂道を上がっていくこと8分ほど。徳川家康の家臣として活躍した石川丈山が、関ケ原の合戦や大坂夏の陣の後に武将をリタイアし、59歳の時にこの地で結んだ草庵が曹洞宗の禅寺に。狩野探幽が描いた中国の詩人36人の肖像画を掲げた「詩仙の間」にちなみ「詩仙堂」と呼ばれるようになりました。英国王チャールズ3世が皇太子時代、ダイアナ妃と共に訪れたこともあるとか。
見頃を迎えた丸く刈り込まれたサツキの低木と白砂の対比が美しい枯山水庭園と静かに向き合った後は、備え付けのサンダルを履き、時折響き渡る鹿おどしの音や境内を流れるせせらぎに耳を傾けながら、風情あふれる境内を巡りましょう。ここも「青もみじ」に包まれています。
詩仙堂から北へ3分ほどの圓光寺は、徳川家康が開いた学問所に始まります。仏教画「十牛図」に由来する書院前に広がる十牛之庭は、10の石を牛に見立て、迷える人が悟りを開くまでの道のりを表しているといいます。この季節、苔(こけ)ともみじが織り成す緑のグラデーションが壮観です。また、巨石と白砂で龍が大雲海を泳ぐ姿を表現した奔龍庭も見どころです。本堂手前には水琴窟も。柄杓で水をすくってかけ、かめに落ちていく雫の清らかな反響音に耳を澄ませてみてください。
洛北コースのラストは、圓光寺から徒歩15分ほどの「修学院」駅で再び叡電に乗り、2つ目の「三宅八幡」駅を降りて高野川畔の「蓮華寺(れんげじ)」へ。1662(寛文2)年、加賀前田藩家老の今枝近義により、洛中から現在地に移されて再興。詩仙堂を開いた石川丈山が、池に鶴亀の島を配した庭園を手掛けました。六角形の笠をつけた珍しいフォルムの石灯籠は、蓮華寺型石灯籠として名高いものです。
詩仙堂、圓光寺、蓮華寺。いずれの庭園も、縁側に座って眺めても見事な「青もみじ」なのですが、部屋の奥までぐっと下がって、柱や軒を額に見立てて眺めるのがおすすめ。今しか出合えない「青もみじ」を、一幅の絵のように堪能できます。
この付近は京都のラーメンの聖地として名高い一乗寺エリアでもあります。叡電本線と鞍馬線の乗り降りが自由で、対象店舗のラーメンが1杯楽しめる「京都一乗寺らーめん切符」(大人1900円)でお得に食べ歩きするのも楽しいでしょう。
ところで、叡電鞍馬線「市原」「二ノ瀬」駅間は、約250mにわたって「もみじのトンネル」が続きます。5月31日まではこの区間を通常よりスピードを落として運転しており、「青もみじ」をゆったりと見ることができます。1時間に1~2本運行している、ガラス窓を広くとった展望列車「きらら」なら、さらに迫力ある眺望を追加料金なしで堪能できますので、タイミングが合えばぜひどうぞ。