感情の昂ぶりを表現する上で、「最高」よりも強い意味を持つ「最幸」を選びたい、という願望は理解できるものです。以上の事例は、そうした使用者の思いを、端的に示していると感じます。

経営者が「最幸」の多用で
労働者を洗脳する効果も

「最幸」は、ビジネスの世界にも普及しているようです。2018年11月16日付の中日新聞朝刊(豊田版)が紹介した、豊田青年会議所による働き方改革への試みは、象徴的かもしれません。

 スポーツの試合前、監督が選手を激励する際の短い声掛け「ペップトーク」をモチーフに、LINEスタンプを作成したとの内容です。ユーザーが前向きになれるよう、「最幸(最高)です!」「顔晴れ(頑張れ)☆」など、16種類のフレーズを用いたといいます。

 記事には、働き方改革とのつながりについて、同会議所関係者の発言を引きつつ、次のようにつづられています。

 長時間労働の解消など即座に実現できないことが多い点を指摘した上で、「人、お金、設備は用意できなくても、言葉の力による改革にはすぐに取り組める」と説く。相手を否定してやる気をそぐのではなく、励まし積極的にさせる言葉掛けによって、仕事がしやすい環境をつくり、生産性の向上にもつなげられるという。
――2018年11月16日付 中日新聞朝刊(豊田版)

「日本ペップトーク普及協会」の浦上大輔専務理事は、ペップトークの必須要素として「ポジティ語変換」を挙げています(2019年5月7日付 東洋経済オンライン)。後ろ向きな思考や言葉を、プラスの方向に転換し、コミュニケーションに反映するという発想です。

 そして話者の態度の変化が、周囲の人々の心を動かし、組織の雰囲気が一変すると説きます。豊田青年会議所のLINEスタンプは、こうした性質を職場環境の改善に応用した一例と考えられるでしょう。そのこと自体は、歓迎すべきものです。

 ただ、この取り組みは、外部からの働きかけによって、他者の心情を変化させる行為とも言えます。働きやすさの追求ではなく、経営者にとって管理しやすい労働者をつくる、という観点で行われてしまう可能性は否定できません。