原油相場は4月高値から大幅下落、OPECプラス減産継続でも上値を追えない理由とは?Photo:PIXTA

イスラエルとハマスの紛争など地政学リスクの高まりを受けて、原油相場は4月に高値を付けたが、その後は値を下げている。OPECプラスは、6月2日に減産継続を決定したものの、相場の反応は鈍い。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員 芥田知至)

4月半ばに昨年10月以来の高値
その後米高金利継続観測などで下落へ

 3月半ば以降、原油相場は上値を試す展開となり、4月12日には米国産のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)で1バレル当たり87.67ドル、欧州北海産のブレントで92.18ドルと昨年10月以来の高値を付けた。その後、騰勢は一服し、相場は軟化している。

 4月上旬、中東の地政学リスクが和らぐとの期待もあって、原油相場が下落する場面があった。8日は、前日にガザでの戦闘を巡るイスラエルとイスラム組織ハマスの停戦協議が始まったことや、イランが月初に起きたイスラエルによるシリアのイラン大使館空爆に対する報復を見送っていることが相場を押し下げた。

 しかし、10日には、イスラエルの空爆によってハマス指導者の息子3人が殺害されたことで、停戦交渉が難航するとの懸念が強まった。

 12日は、この日にもイランがシリアでの大使館空爆に対するイスラエルへの報復を行うと報道され、原油は買われて、既述の通り、高値を付けた。

 週明けの15日は、13日夜から14日未明にかけてイランがイスラエル領内に報復攻撃を行ったものの、被害は最小限にとどまったことや、イランが作戦終了を表明して事態の幕引きを図ったとみられたことを受けて、中東の原油供給に影響が出るとの懸念が後退した。

 17日に原油相場は大幅に下落した。前日のパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長らのタカ派的発言を受けて、利下げ開始時期が後ずれするとの観測が強まった。EIA(米エネルギー情報局)の週次石油統計で原油在庫の増加幅が市場予想を上回ったことも弱気材料だった。WTIは3.1%安、ブレントは3.0%安だった。

 19日は、イスラエルがイラン領内に向けた攻撃に踏み切ったと報じられ、原油が急騰する場面があった。しかし、攻撃は限定的と受け止められ、イラン側が即時に再報復する意向はないと示唆する中、中東情勢の緊迫化懸念が幾分後退し、原油の上値は限定された。

 翌週に入って23日は、イスラエルによるガザ地区南部ラファへの本格侵攻が警戒されたことや、S&Pグローバルによる米PMI(製造業購買担当者景況指数)が弱めに出てドル安につながったことが強気材料となった。

 29日は、27日にガザでの戦闘を巡る交渉で、イスラエルが人質解放後に停戦を協議することを提案したと報じられ、停戦交渉が本格化するとの観測から原油相場は反落した。

 次ページ以降、5月以降の相場を振り返りつつ、原油相場が上値を追えない要因を検証する。