世界中で個人消費支出が上昇
物流コストや異常気象もインフレ要因に

 現在、世界的にインフレへの懸念がやや上昇しつつある。4月の米国の個人消費支出(PCE)価格指数は前年比2.7%上昇した。3月から横ばいだった。変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアPCE価格指数は前年比2.8%上昇した。

 米国で利下げが実施されるには、少なくとも数カ月間、インフレ率が明確に低下する必要がある――こうした認識を示す、米FRB関係者が増えている。コンファレンス・ボード(全米産業審議会)の消費者信頼感調査(5月)によると、1年先のインフレ予想も上昇した。年内の利下げの可能性は残るが、物価安定には時間がかかるだろう。

 わが国の経済環境も、デフレ経済からインフレ気味へシフトしている。4月、全国の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で2.5%上昇だった。品目ごとにばらつきはあるものの、食料価格は同4.3%上昇と高い状況が続いた。5月分中旬(速報値)の東京都区部の消費者物価も高止まりした。

 背景にはいくつかの要因がある。まず、世界的な人手不足により、賃金上昇ペースがコロナ禍前を上回っていること。企業にとって人材確保のための賃上げの必要性が高まっている。また、ウクライナ紛争や中東情勢など、地政学リスクによる不安定なエネルギー資源の価格や、物流コストが増加していることも挙げられる。

 中東の状況によっては今後、エネルギー供給インフラに「被害が出る」との見方もあり、5月は欧州の天然ガス価格が上昇した。脱炭素やロシア制裁などの影響で、銅などの価格も上昇圧力がかかっている。

 さらに、異常気象も物価上昇に影響した。オレンジ、カカオ、オリーブ、コーヒー豆、牧草、小麦などの穀物の生育不順が深刻である。わが国では、円安の進行と価格の上昇により輸入物価が高騰し、オレンジジュースが販売休止になる懸念すらある。

 5月末時点で、日本の長期金利は、一時1.10%を付けた11年7月以来、約13年ぶりの長期金利水準である。長年ほとんど動かなかった金利が、少しずつ動き出している。