大企業の社長や起業家、科学者など、いわゆる社会的に成功した方々にたくさん取材する機会を得てきました。その数は、3000人を超えています。誰もが知る有名な会社の社長も少なくなく、「こんな機会はない」と本来のインタビュー項目になかったこともよく聞かせてもらいました。インタビューで会話が少しこなれてきているところで、こんな質問を投げかけるのです。
「どうして、この会社に入られたのですか?」
数千人、数万人、中には数十万人の従業員を持つ会社の経営者、あるいは企業を渡り歩いて社長になった人となれば、仕事キャリアに成功した人、と言って過言ではないと思います。仕事選び、会社選びに成功した人、とも言えるでしょう。ところが、そんな人たちの「仕事選び、会社選び」は、なんともびっくりするものだったのです。
本記事は、『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋してご紹介いたします。
「それは、社長を目指さないこと」
社長にインタビューする機会があると、「どうして、この会社に入られたのですか」とこっそり質問していた、という話を書きましたが、実はもう一つ、よくしていた質問があります。
「どうやったら、こんな立派な会社の社長になれますか?」
会社を選んだ理由が偶然だったと多くの社長が語っていたと書きましたが、この質問の返答も多くの社長で似通っていました。
「それは、社長を目指さないこと」
社長になりたい人を社長にしてはいけない、と語っていた人もいました。理由は単純で、社長がゴールでは困るからです。社長というポジションは、ある意味「ツール」なのです。社長になって、この会社をこれからどうしていくか、ということこそが求められる。
思わず感じたのは、「たしかにそうだよな」でした。それこそ、「社長になりたい」という人を果たして社長にするか。それよりは「社長になって会社を引っ張ってくれる人」「社長になって何かをやってくれそうな人」を選ぶでしょう。
これ、取締役でも部長でも課長でも同じだと思いました。取締役や部長や課長になることがゴールでは困るのです。そのポジションを通じて何をしたいか。何ができるか。それこそが問われるのです。
ネスレ日本の元社長でマーケティングのカリスマと呼ばれた高岡浩三さんが、興味深い話をしていました。自分が一つ上のポジションにいたらどう考えるか、といつもシミュレーションしていた、と。また、自分が担当している部署以外の事業についても、よく考えていたというのです。
それが思考のトレーニングとなり、どんなテーマについて上司に聞かれても、いつも答えが用意してあったそうです。
実際、10年にわたって右肩下がりになっていた「ネスカフェ」のビジネスについて問われたとき、インスタントコーヒーの難しさを伝えた。ここから、プロフェッショナルが堂々と使える「ネスカフェ」を作れば一気にイメージが変わるだろう、と考えたというのです。
高岡さんは、ホワイトカラーは考える仕事をしていない、と語っていました。やっているのは、ほとんど作業。考える時間を増やすだけで、思考力は雪だるま式に高まっていくはずだ、と。
平社員時代は、課長の立場で仕事を眺める。課長時代は、部長の立場で仕事を眺める。一つ上のレイヤーから見ていくのです。課長だったらどうか、部長だったらどうか、と考えてみる。求められているのは、考えること、なのです。
ちなみに高岡さんは、小学校5年生のとき、父を42歳で亡くしていました。この境遇が、実力次第で活躍の場が早く広がりそうな外資系という選択につながりました。しかも、長男として母の面倒を見ないといけない。
地元の関西に本社があって、自社ブランドもマーケティングも強い外資系というと、2社しか浮かばなかった。その一つが、ネスレ日本だったのです。自分の境遇が、会社選びに直結していたのです。
※本記事は『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋して構成したものです。