味の素が見せた覚悟

 企業が大きな経営変革を行おうとするときには、従業員にボトムアップ型の改善の積み重ねを迫るのは効果的ではありません。従業員にも社外のステークホルダーにも、経営、特に社長の覚悟を最初から見せるべきです。

 西井社長が始めた、社長としての覚悟の見せ方は、それからの味の素の経営のモデルにもなりました。

 2022年に社長は藤江太郎氏が就任し、経営陣も世代交代をしました。企業変革、成長スピードはますます向上しています。現在のパーパスは、「アミノサイエンスⓇで、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」です。

 注目すべきは、これまでの伝統的価値観を表す「食」という言葉がなくなったこと、そして、食品事業とアミノ酸事業の両方に共通する味の素独自の用語「アミノサイエンスⓇ」という言葉を用いたこと、さらには、健康という概念を「Well-being」という、より広範で上位である概念に置き換えたことです。

 これで、新体制の目指す姿、すなわち、信念と覚悟が非常に鮮明になりました。もう、味の素にステークホルダーとの「見えない壁」は存在しません。

 私は現在、他社の顧問や社外取締役などを引き受けていますが、社長や経営トップの方たちに、大きな変革を行うときにはトップダウンでやるように指導しています。トップダウンでやることを決めるのは、もちろん社長であり、これには相当の信念と覚悟がいるのは間違いありません。

 しかし、その覚悟こそが会社の運命を決めるのです。