人類の知性を上回る
人工「超」知能ASIも登場か
今後、AI産業において競争は激化するだろう。打倒エヌビディアを目指す企業が増えているからだ。演算装置とHBM(広帯域幅メモリー)を近づけるなど、エヌビディアと異なる方式でAIチップ開発を目指す企業は多い。
わが国にも、エヌビディアを追いかける企業がある。代表的なのは、北海道に工場を建設中のラピダスだ。また、ソフトバンクグループも傘下の英アームを軸にAIチップの設計、製造に参入する意向を示している。エヌビディアの独走は、いつまでも続かないかもしれない。
チップの研究開発によって、AIの性能は向上するだろう。AIのトレーニングセンターとしてデータセンターの建設も増えている。データセンターの電力消費を支えるため、SMR(小型モジュール炉)や核融合発電の研究も進むはずだ。新発電源の利用が増えると、天然ガス由来の発電の重要性は低下するかもしれない。脱炭素に関する価値観は変化し、国際世論における中東諸国などエネルギー資源国の発言力も揺らぐことも考えられる。
議論の余地はあるが、将来、人類の知性を上回るAI、人工「超」知能などと呼ばれるASIが登場する可能性もある。現在のAIは、人間がスイッチを入れて質問すると何らかのキーワードを認識する。アルゴリズムに基づいて推論し回答を提示する。それは、AIが質問者の意図を理解しているわけではない。
AIが学習を重ねると、人間の意識に似た機能を備えるかもしれない。そうなると、自律的に電源を入れて思考するようになる可能性もある。その場合、AIが私たちに負の影響をもたらすかもしれない。「AIの父」と呼ばれるトロント大学のジェフリー・ヒントン名誉教授は、その懸念が高まっていると警鐘を鳴らす。
英国の産業革命は、主に工場労働者の働き方を変えた。AIはホワイトカラーの生き方を劇的に変える可能性を持つ。AIが、人間に必要と考えるモノやサービスを生み出すことも考えられるし、状況によってはAIが株式などの売買を自律的に行うことで、金融市場の不安定性が増幅される恐れもある。
AI革命で、人間はいかに生きるかが問われる時代が来ると想定される。私たちがAIをどう使い、社会と経済のベネフィットを増やすかを考えるためにも、AIチップ開発は進むだろう。AI関連分野の競争も激化することが、人類にとって良い方向に進むことを祈りたい。