「投資」と聞いて、どんな言葉が浮かびますか? 儲かる、損をする、嬉しい、悲しい――。確かに、投資によってお金が増えれば誰でも嬉しいし、損をすれば悔しい、失敗したと思うでしょう。でも、あなたが投資によって将来見たいものは、お金「だけ」を手にした姿でしょうか? 本稿では「社会をよくする投資」の本質について考えます。
※本稿は、鎌田恭幸『社会をよくする投資入門:経済的リターンと社会的インパクトの両立』(NewsPicksパブリッシング)の一部を抜粋・編集したものです。
投資がお金を増やす「だけ」の手段になっている
日本の政府は、「新しい資本主義」の旗印の下で、国民の積極的な資産形成を促す「資産所得倍増プラン」を推し進めている。その目玉政策の1つが、証券投資に関わる非課税制度、いわゆるNISAだ。2000兆円を超える個人の金融資産を投資に向かわせようとする動きが加速するなかで、この機を逃すまいと、証券会社などの金融機関も個人への投資勧誘に否(いや)が応(おう)でも力が入る。
こうした世の中の風潮から、「とりあえずNISAをはじめたほうがよさそうだ」とお金を増やすことに関心を向ける人が増えた。
ところが、こうして投資に興味を持ちはじめた人と話をしていると、
「何を買えばいいんだろう」
「損はしたくない」
「何となく怖い」
「手続きがよくわからない」
といった声が数多く聞こえてくる。投資が何となく気になりながらも一歩踏み出すことに躊躇(ちゅうちょ)している人たちの声だ。こうした人の心を揺(ゆ)さぶるかのように、書店やSNSでは、金融資産を蓄えて早期にリタイヤするFIRE(Financial Independence, Retire Early)やNISA制度の解説など、投資に関する書籍や情報が数多くならぶ。
「将来が不安」な時代における投資
僕が投資の現場に身をおいた1989年から、日本の個人金融資産は約1000兆円から2000兆円を超えるまでに増え、GDP(国内総生産額)は実質ベースで年400兆円から約560兆円に拡大した。日経平均株価も、34年ぶりに史上最高値を更新した。
しかしはたして、「実際に」お金が増えていると実感している人はどれだけいるのだろう。あなたはどう感じているだろうか。お金は増えて、人は幸せになっただろうか。
社会をよくすることと、利益を出すこと
将来が不安で、お金を増やすために投資をしようとしているのに、「社会をよくする」なんて、「そんなお人好しなことは言っていられない」と思うかもしれない。
「社会をよくする」というと、お金を増やすことの反対にある「寄付」をイメージしたり、「経済的な利益が犠牲(ぎせい)になりがちなのでは」と、疑問に思う人もいるだろう。しかし、けっしてそうではない。