会議終了後に記者会見した日本政府代表の福田工水産庁審議官は、国際会議に向けた提案を練るため6月上旬に水産庁が開いた漁業者らとの意見交換会で、漁業者や関係自治体が最大限の枠の獲得を望んだことを理由に挙げた。
しかし、意見交換会の当日、議論の前提として水産庁が詳しく説明したのは大型魚100%増、小型魚20%増というシナリオ18番で、ISCの試算によると、初期資源量の20%水準を維持できる確率は75%ともう少し高い。水産庁も、「内々の試算でぎりぎり水準を維持できる数値である」と説明していた。
シナリオ7番がダメでもこの18番くらいで妥協が成立すればいいという甘い期待もあったのかもしれない。しかし、漁業者の声をそのまま受け入れたという言い訳を用意しつつ、国際社会ではおよそ受け入れられないような漁獲倍増案をまとめて、ひとり相撲の挙げ句、交渉の主導権を失ってしまったのは残念なことだ。
国内での枠の「再配分」が課題
会議の透明性に疑問
実は、増枠を求める漁業者の多くは、予期せぬ大量漁獲に見舞われ、漁獲上限を超えるマグロの放流や投棄を余儀なくされている沿岸の一本釣り、ひき縄漁師や定置網、はえ縄漁業者らだ。大きな漁獲枠を与えられている大中型まき網漁業からは、放流で苦しんでいるとか、漁獲枠の倍増が必要だという声は聞こえてこない。
つまり、国内での枠再配分でかなりの部分、漁業者の不満は解消できるのに、水産庁は漁業種類ごとに縦割りで管理し、それぞれの間の配分量の見直しには消極的だ。「10本釣って水揚げするのは1本か2本だけ」という漁業者の不満は、単純に枠を増やすだけでは解消しない。
まき網漁業から定置網、釣り漁業へと枠の配分を変更するか、融通できるような仕組みを作ることも必要になってくるだろう。増枠交渉で玉砕した日本政府がやるべきは、もう一度、クロマグロ漁業の実態をよく調査し、多くの漁業者が納得するよう配分の仕方を改めることだ。