それから3年。鈴木俊宏体制もすでに丸9年がたち、10年目に入った。

 スズキは、トヨタと同じように織機から自動車メーカーに転じ、それぞれ豊田家と鈴木家のオーナー家出身者が経営者という共通点がある。だが、トヨタと違うのは、スズキは2代目の鈴木俊三氏(初代鈴木道雄氏長女の娘婿)と3代目の鈴木實治郎(道雄氏三女の娘婿)氏、4代目の鈴木修(俊三氏長女の娘婿)氏がいずれも娘婿として鈴木家に入った立場でスズキの経営者となっていることだ。

 そうした中で鈴木俊宏社長は、鈴木修氏の長男として1959年に生まれ、その名は「岳父の俊三から俊の字をもらって名付けた」(鈴木修氏)という。その意味で、鈴木家としては初の直系男子となる。東京理科大学大学院修了後、当時の日本電装(現デンソー)に入社し修業を積んでからスズキ入り。そこで、じっくりと帝王学を学び、15年に社長に就任した。身近で「鈴木修流経営」を学びながら、鈴木俊宏体制としては「チームスズキ」の連帯を強調しつつ、着実に経営者としての経験の蓄積を図ってきた。

 鈴木修氏のカリスマ経営からチームスズキへ移行し、誠実な人柄の鈴木俊宏体制が経験を重ねて機能していく中で、足元では業績も波に乗る。前期の24年3月期決算では、売上高が5兆3743億円(前期比15.8%増)、営業利益4656億円(同32.8%増)、純利益は2677億円(同21.1%増)と2期連続で最高益を更新。営業利益率は8.7%(前期は7.6%)だった。

 さらに、この好業績を受けて、今期からは意欲的な攻勢も進めている。すでに母国の日本市場では、販売台数においてトップのトヨタに次ぐ第2位の座をスズキが確立しており、スズキの世界戦略の要であるインドでは、EVや増産の大型投資や販売シェア50%への奪回作戦も進んでいる。

 インド政治を率いるモディ首相との関係も鈴木修氏から鈴木俊宏社長がしっかりと引き継いでおり、また、国内や海外のスタートアップ企業との連携や出資を積極的に行うなど、活発な動きが目立っている。

 さらには、鈴木俊宏社長は鈴木修氏もなり得なかった日本自動車工業会の副会長に22年5月から就任しており、今年6月には自動車公正取引協議会(公取協)会長にも就任して業界活動のリーダー役としての幅も広げている。

 今年4月に鈴木俊宏スズキ体制として役員・組織を一新し、6月の株主総会後の新経営陣もチームスズキの結束を固め、65歳となった鈴木俊宏氏率いる体制は円熟味を増した。名実ともに「鈴木修カリスマ経営」から脱皮し、鈴木俊宏体制へ完全移行したこのタイミングで、2030年代に向けたスズキの生き残りへ挑むことになるのだ。

(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆  佃 義夫)