今後5年でエヌビディア包囲網は狭まる
米マイクロンは日本に5000億円設備投資

 今後5年の間に、世界のAI向けデータセンターの電力消費量は10倍に増えるとの予測もある。AIチップの電力消費量の削減にチャンスを見いだす企業は増え、エヌビディア包囲網は狭まるだろう。新しいチップの実用化で、AIの学習スピードが高まり、汎用型AIなど次世代人工知能の活用が前倒しで実現する展開も想定される。

 そうした変化を見越して、設備投資の積み増しを示唆する企業も出始めた。米メモリー大手のマイクロン・テクノロジーは、日本の広島工場をHBMの主要製造拠点に育てる方針だ。マイクロンはエヌビディアの求めるHBMの供給能力を実装する。また、AMDとも協業している。

 4月、HBMで先行するSKハイニックスは、韓国国内に20兆ウォン(約2兆2000億円)を投じて最新鋭の工場を建設すると発表した。また、初の米国工場も建設する方針である。米国での投資額は、ひとまず38億7000万ドル(1ドル=157円で6000億円程度)のようだ。

 23年5月、マイクロンはわが国で5000億円を投じる方針を示した。経済産業省は最大1920億円を補助する方針だ。SKハイニックスとのシェア縮小、新しい演算装置に対応したメモリーを供給するため、マイクロンが広島工場などの設備投資額を引き上げる可能性は高いとの見方は多い。

 主要国が経済安全保障体制を確立するためにも、AIチップの重要性は高まるばかりだ。エヌビディア、AMD、SKハイニックス、マイクロンなどは、景気が減速したとしても設備投資や買収を増やすことになりそうだ。反対に、投資が遅れると、開発競争の激化についていくことが難しくなるだろう。AI分野における民間企業のリスクテイクが難しくならないよう、政策面からの支援の重要性も高まる。

 事業運営のスピードの点では、後発組の新興企業に優位性がある。組織の規模が小さい分、意思決定が迅速に行えるからだ。スタートアップ企業がラピダスと組み、従来はなかったAIチップを供給することも考えられる。現状、AI業界で独り勝ち状態のエヌビディアではあるが、同社を取り巻く競争は激化すると予想される。