「商談では傾聴するよりも、大事にしていることがあります」
そう語るのはアメリカン・エキスプレスの元営業である福島靖さん。世界的ホテルチェーンのリッツ・カールトンを経て、31歳でアメックスの法人営業になるも、当初は成績最下位に。そこで、リッツ・カールトンで磨いた「目の前の人の記憶に残る技術」を応用した独自の手法を実践したことで、わずか1年で紹介数が激増。社内で表彰されるほどの成績を出しました。
その福島さんの初の著書が記憶に残る人になるガツガツせずに信頼を得るための考え方が満載で、「本質的な内容にとても共感した!」「営業にかぎらず、人と向き合うすべての仕事に役立つと思う!」と話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、商談の際に「積極的に伝えていること」について紹介します。

「商談で傾聴ばかりしている人」がお客様の本音を引き出せない、決定的な理由とは?Photo: Adobe Stock

「傾聴」していても、本音は出てこない

 よく商談では、「2割話して、8割聞く」のが良いと言われます。
 これまで何をしてきたのか、今は何に困っているのか、これからどうなりたいのか。過去、現在、未来と幅広く問いかけ、そこから得た情報によってお客様の「ニーズ」を具体化していきます。

 ですが、ヒアリングによって引き出せるのは「言葉になっているニーズ」です。お客様の心を動かすには、言葉にされていないニーズを叶える必要があります。潜在的なニーズはお客様自身も気づいていないため、いくら聞き出そうとしてもなかなか辿り着けません。

 そこで僕は、ときに商談の「8割」、自分から話すことがあります。ひたすら商品説明をするとか、お客様を説得しているというわけではありません。僕が積極的に伝えているのは、自分の「想いと意見」です。

ある経営者との商談にて

 たとえば営業時代、ある注目企業の経営者を紹介いただいたときのこと。
 その経営者には、「広告運用やサーバー費用の支払いが多額だが、現在のカードは使いすぎると止まってしまう」という、言葉になっているニーズがありました。
 自社で稟議した結果、特別に高額な与信枠を用意できたため、まずは目先のニーズを解決することができました。

 すると今度は、その経営者から「人材不足を解消したり、社員のモチベーションを上げたりする方法はないか」と相談を受けました。いちど関係ができたお客様からは、カード以外のご相談を受けることは少なくありません。

 はじめは理路整然とした会話が続いていましたが、次第に「社員には幸せになってほしいんです!」と、熱のこもった会話になっていきました。

本音を語ることでしか、本音は引き出せない

 そこで僕もお客様の話に乗っかり、リッツ・カールトンでおこなわれていた社員教育、それによるモチベーションの変化、教育の根幹にある「クレド」の話など、おそらく30分ほど一方的に話しました。
 
お客様は相槌を交えながら真剣に聞いてくれた後に、こう言いました。

「今の弊社に必要なのは、初心を思い出すことかもしれません」

「社会の理不尽をなくしたい」という純粋な願望から始まった事業も、市場で競争するうちに、気づけば「うまくいきそうな方法」ばかり真似していたそうです。だから業績は右肩上がりでも、心が満たされない違和感を持っていたようでした。

 それが、リッツ・カールトンでの経験を熱く話す僕の姿に、創業当時の自分の姿が重なり、違和感の正体に気づけたそうです。
 
こちらの話が呼び水になって、お客様自身が心の奥にしまいこんでいた想いが引き出され、本当の欲求に気づけたのです。

本音に「気づかせて」あげよう

「潜在的な願望はなんですか?」と聞かれて、答えられる人はいません。自分では気づけないから、潜在的なのです。

 でも誰かを見て、話を聞いて、共感して、「自分もこうなりたいな」「この考え方は素敵だな」と、本音に気づくことはあるのではないでしょうか。

 こちらが想いを込めた話をしていると、それに呼応して、相手の心の奥にしまわれていた願望が磁石に吸い寄せられるように顔を出してくれます。
 刺激を受けたことで、水面下に隠れていた無意識が顔をのぞかせます。

 だから僕は、ときに商談の8割、自分が話すのです。

(本稿は、『記憶に残る人になるートップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』から一部抜粋した内容です。)

福島 靖(ふくしま・やすし)
「福島靖事務所」代表
経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。高校時代は友人が一人もおらず、18歳で逃げ出すように上京。居酒屋店員やバーテンダーなどフリーター生活を経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。当初は営業成績最下位だったが、お客様の「記憶に残る」ことを目指したことで1年で紹介数が激増し、社内表彰されるほどの成績となった。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。38歳で株式会社OpenSkyに入社。40歳で独立し、個人事務所を設立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。