高血圧になる人は非常に多い。日本人のうち実に4300万人が患者予備軍だという。大人の二人に一人だ。しかしよほどひどくならない限り自覚症状がないため、治療を受けない人も驚くほど多い。多くの人が治療を受けないまま、突然に死を迎える。治療を受けさえすれば、確実に改善される病気なのに…。
これは、医学界の長年の悩みだった。その難問に果敢に切り込んだのが、『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』(ダイヤモンド社)の著者としても知られる森岡毅だ。森岡毅率いる株式会社 刀は、2022年にオンライン診療事業を行う事業会社としてイーメディカルジャパンを立ち上げ、さらに今年7月、6社の共同プロジェクトとして「PROTECT HEARTS PROJECT」を始動した。(取材/亀井史夫・ダイヤモンド社)
スマホだけで完結できる高血圧治療
「高血圧の治療法は確立されています。定期的に病院に通い、血圧を測り、薬を飲む。それだけで症状はほぼ改善されます。しかし病院は、診療時間が短い割に待ち時間が長い。処方箋を薬局に持って行って薬を出してもらうのにも時間がかかる。処方箋の有効期限のために毎月の通院が必要で、それがが面倒で治療を途中で辞めてしまう人が多いのです。特に仕事で忙しい現役世代には高血圧治療を始めることも続けることも簡単ではありません」(森岡毅氏)。
それに対する、刀によるマーケティングの解はこうだった。
オンライン診療のため通院は不要、完全予約制のため待ち時間もなし。血圧計は貸与され、そのデータは常に医者に共有される。必要な薬は郵送で届く。保険が効くので費用も通院と同等。
「面倒臭さ」を徹底的に排除し、スマホがあれば完結できるイーメディカルのシステムは好評を博している。受診から半年後の継続率が9割を超えるという(通常の通院では5割以下)。実に驚異的な成果を挙げている。
確実に成果を上げるイーメディカルであったが、もどかしさも感じていた。
「1社でCMを打ち、啓発を続けても限界があるんです。この活動を何年続けたら日本にそれが浸透するか、計算してみたところ、なんと128年かかることがわかった。治療法は確立されているのに、世間的な関心が低いため、救えるはずの命が毎年のように失われてしまう。それが残念でならない。必要なのは国民の意識を変えることなんです」(森岡氏)
かつて「交通戦争」と呼ばれた時代が日本にはあった。交通事故で毎年、1~2万人もの命が失われていた。しかし現在、交通事故による死者は年間2600名まで激減している。車の性能向上や、法規制の強化など、いろいろ理由はあるだろうが、最も大きなものはメディアなどの啓発活動による人々の意識の変化なのだと森岡氏は語る。
「「車に気をつけてね」は、出かける人に誰もが必ずかける言葉です。ドライバーがシートベルトを着用するのも、もはや当たり前の習慣になりました。一方、高血圧が原因の心臓突然死で亡くなる人は何人いるか、ご存じですか? 年間9万人です。交通事故死の35倍なのです。しかし人々は「車に気をつけてね」の35倍、「血圧に気をつけてね」と言っているでしょうか。高血圧による心臓突然死は避けられる死です。人々の意識を変えることが第一なのです」(森岡氏)。