無理に話を聞き出すのではなく、寄り添う姿勢が重要とのこと。そして最後の「つなぐ」とは、衣食住などの基本的な支援や、遊び、学びなど子ども特有のニーズを満たせるよう支援することを指す。
「支援と言っても“大人がなんでもしてあげる”のではなく、大切なことは、できるだけ子どもたちの自助力を促すのが、PFAの考え方です。ただ、子どもの中には長期に渡って強いストレスを感じていたり、日常生活に支障をきたしていたりする子は、自分の力では対処できないケースがあります。その場合は、養護教諭やスクールカウンセラー、精神保健医療の専門家につなぎ、更なる支援を受けることが大切です」
被災時に心のケアを受けた子どもたちには、被災後の生活にプラスの影響がある。先述の西日本豪雨で、子どもの居場所の運営に関わった人が「被災当時の気持ち」を子どもたちに尋ねたところ、彼らは「遊んでいたことしか覚えていない」と答えたという。
子どもの居場所が被災の記憶を乗り越えるための心のよりどころになったのだ。
「私自身、支援活動を通じて子どもたちが自らの力で回復する姿を見てきました。しかし、日本の避難所では子どもの居場所の設置は優先度が低く、PFAの認知度もあまり高くありません。緊急時に子どものこころのケアができるよう、普段から私たちの意識を高めておくことが大切です。今後、より多くの人に緊急時のこころのケアについて知ってもらうために私たちも尽力していきます」
どんな状況でも、子どもたちが健やかに過ごせるように支える。災害大国に住む私たちにとって重要な視点と言えそうだ。
赤坂美幸
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 精神保健・心理社会的支援エキスパート
米国の小児病棟で心理社会的ケアの経験を積み、英国の大学院で心理学・神経科学課程を修了。2012年からセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのスタッフとして国内の緊急支援に従事。2022年ウクライナ危機対応、2023年トルコ・シリア大地震の人道支援にも従事している。2014年に「子どものための心理的応急処置(PFA)」を日本に導入し、2016年からは多職種と協力しPFAの国内普及の中心的な役割を担い、熊本地震緊急支援においては同手法を実践した。その後もモンゴルやガザなど海外での研修を実施している。