約10年ごとに訪れる試練の中で
鉄道と関連事業にどう取り組んできたのか
不思議なもので、JR東日本には約10年間隔で試練が訪れる。1991年のバブル崩壊、1997年の金融危機、そして2008年のリーマンショックだ。日本の実質GDPが1年で約530兆円から約481兆円に縮小する大不況の影響により、2007年度からの2年間で新幹線は約514億円、在来線は約401億円もの大減収で、連結営業利益は約1003億円の減益となった。
金融危機は2009年のギリシャ債務問題、2010年の欧州政府債務危機に波及するなど混乱の収拾に時間を要したが、ようやく回復の光明が見え始めた2011年3月、今度は超巨大地震が東北地方を襲う。東日本大震災である。
甚大な震災被害は今更ここに記すまでもないが、震災に前後して顕在化した、より深刻な問題は東北の人口減少だった。2002年の将来推計人口では2000年に約982万人だった東北6県の人口が2010年に約966万人、2020年に約924万人になると予想していた。
しかし第3次ベビーブームが訪れないまま迎えた2007年の推計では、2010年に約937万人、2020年に約869万人へと大幅に下方修正され、2010年の国勢調査では予想をさらに下回る約934万人となった。震災後は津波被害を受けた沿岸部を中心に人口流出がさらに加速し、東北地方の2010年から2020年にかけての人口減少率は全国最大の7.8%に達した。
JR東日本は2012年10月、リーマンショックと震災後の環境変化を反映した「グループ経営構想V~限りなき前進~」を策定し、東日本大震災を国鉄改革に次ぐ「第二の出発点」と位置付けた。
その後、日本経済は回復に転じるが、JR東日本は手綱を緩めなかった。2018年7月に発表したグループ経営構想「変革2027」で、今後30 年で想定される「非常に厳しい経営環境の変化」に対応すべく、事業価値を「鉄道のインフラ等を起点としたサービス提供」から「すべての人の生活における『豊かさ』を起点とした社会への新たな価値の提供」に転換すると表明した。コロナ禍後も「変革2027」は大枠を維持したまま引き継がれており、前掲の喜勢社長のあいさつもこの延長線上にあるものだ。
こうした思想のもとで、JR東日本は民営化以降どのように鉄道と関連事業に取り組んできたのか、興味を持った方はぜひ本書を手に取ってほしい。