突然、家族が倒れたり、大きなケガで血が止まらなかったりしたとき、その場での対処がその後を左右する。救命処置・応急手当てができなければ、救急車で病院に着いたときにはもう手遅れ……なんていうことにもなりかねない。正しい知識があれば、家族の命を救うこともあるだろう。
そんな緊急事態を含め、身近な危険から身を守るための知識が楽しく学べる書籍、『いのちをまもる図鑑』(ダイヤモンド社)が刊行された。心肺停止した人への救命処置から、危険生物に遭遇したときの対応、突然の災害から身を守る方法まで、さまざまな「生きる知恵」が網羅されている。
今回の記事では、『いのちをまもる図鑑』第3章「ケガ・事故からいのちを守る」監修者で医師の西竜一先生に、「突然のケガ・病気で死なないための応急処置ベスト3」について聞いた。(取材・構成 / 小川晶子)

【生死を分ける】突然のケガ・病気で死なないための応急処置ベスト3Photo: Adobe Stock

1.心臓が止まったら絶対にやるべき救命処置

――西先生は『いのちをまもる図鑑』の第3章「ケガ・事故からいのちを守る」を監修されています。知っておけば家族の命を助けることになるかもしれない知識を挙げるとすると、何がありますか?

西竜一先生(以下、西):やはり、心臓が止まってしまったときの「救命処置」です。原因が何であれ、命の危機は最終的に「心肺停止」に行き着きます。

――心肺停止……。心臓が止まってしまう、ということですよね。すぐに救急車を呼んだとしても、救命処置をしたほうがいいのでしょうか?

西:はい。むしろその場にいた人が救命処置をすることがとても重要で、しなかった場合に比べて2倍も助かる可能性が高まるんです。救急車で病院に来ても心肺停止から時間がたってしまっている場合、私たち医師も助けることができません。無力さを感じるところでもあるので、ぜひ、この知識は持っておいてほしいですね。

――『いのちをまもる図鑑』のなかでも「心臓が止まってしまった場合の救命処置」として「胸骨圧迫」の方法がくわしく説明されていますが、それほど重要なものだからなんですね! 心臓が止まってから何分以内に救命処置を行えば助かる可能性が高まるのでしょうか?

西:4分以内です。4分以上たっても心臓だけなら戻ることはありますが、脳に深刻なダメージを与えないためにも4分以内に救命処置を開始する必要があります。「心肺蘇生」と言いますが、皆さんが目指したいのは「脳と心肺蘇生」ですよね? 心臓と肺が戻っても、意識が戻らない状態では困ると思います。心臓が止まると脳に血流がいかなくなります。すると脳は酸素が足りなくなって不可逆的なダメージを負うんです。だから、脳と心臓に血流を送るために胸骨圧迫をするんです。

――そういうことなんですね。心臓の活動を再開させるためにやるのかと思っていました。

西:もちろんそれもありますよ。心臓に血流がいけば心拍が戻る可能性がありますから。

――胸骨圧迫のやり方は、『いのちをまもる図鑑』にある通り「胸の真ん中の『胸骨』の下半分に片方の手のひらの付け根をあて、その上にもう片方の手をかさねて指を組んで圧迫」、コツは「強く、速く、絶え間なく」ですね。

西:2分間を1セットとして、救急車が到着するまで繰り返します。かなり疲れるので、疲れたら素早く他の人と交代して、中断しないようにしてください。小学生でもできるとは思いますが、2分間続けるのはけっこうキツイと思います。

胸骨圧迫の解説ページ『いのちをまもる図鑑』本文より イラスト:五月女ケイ子
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――同時に、人工呼吸もやったほうがいいのでしょうか?

西:訓練されている方がいる場合や感染制御ができる場合は、やったほうがいいです。ただ「人工呼吸と胸骨圧迫を必ずセットでやってください」と言うと弊害があって、救命のハードルが上がりすぎてしまうんです。

――というと?

西:やることが複雑で混乱してしまい、胸骨圧迫すらやってくれなくなることがあるんです。また、よく知らない人に人工呼吸をするのをためらってしまう方もいます。あくまでも胸骨圧迫がメインなので、それだけでもやれば助かる可能性があります。

――たしかに。知らない人に人工呼吸をするのはハードルが高いかも……。一応、やり方を教えてください。

西:倒れている人の口を口でおおって、鼻をつまみ、息が漏れないようにしながら1秒かけて肺に息を送り込みます。勢いよくやり過ぎると胃や食道に空気がはいってしまって有効でないので、ゆっくり、胸が上がる程度の空気を送ってください。
子どもの場合はとくに人工呼吸もあわせて行った方が良いとされています。

――それは何故ですか?

西:大人の場合は、心臓が原因で心臓が止まることが多いですが、子どもの場合は呼吸が原因の酸素不足で心臓が止まることが多いからです。

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