一方、19世紀のフランスではパリのセーヌ川で渡し船が転覆して300人近くが亡くなる事故がありました。その死因は、メタンガスによる窒息死でした。当時のパリでは、下水道施設はあったものの、そこに集められた排泄物が処理されずにセーヌ川に流されていたため、水が汚染され、メタンガスが発生していたのです。そうして川に投げ出された人々は窒息死してしまいました。江戸とパリ、同時代の川の違いを知ると、日本の循環システムの恩恵がよくわかります。
この江戸型循環システムは遠い昔のものに思えるかもしれませんが、私の子どもの頃にもまだ当たり前にありました。東京オリンピック後の1960年代後半、家族と渋谷のデパートで食事をとっていると、外の道路に、排泄物を運ぶ大八車(木製の荷車)が通っているのが見えました。鉄や銅を、有料で回収するゴミ屋さんもいました。日本人が循環型システムを捨ててしまったのはごく最近のことなのです。