吉村氏は早稲田大学在学中の1996年に国の政策秘書試験に受かった秀才です。当時は戦闘機に憧れるとても珍しい女性だった彼女は、政策秘書試験に受かったものの、どの事務所を受けても電話で女性だとわかった途端に門前払いをされ、石破事務所だけが面接をしてくれて、合格しました。「小さいし、運動神経もない」と自称する女性が、予備自衛官の資格まで持ちました。まさに、石破氏のための政策秘書のような人物です。

 彼女はマキャベリを相当深く研究し、いい中味の原稿ができ上がりましたが、私は心配になって尋ねました。「吉村さんの本といっても、読者にとっては、どうしても石破さんの主張を代弁しているように見えます。それでも大丈夫ですか」と。

 吉村氏はそのリスクに初めて気がついたようで「考えていませんでした。石破先生とマキャベリの話はしますが、彼はマキャベリのような性悪説の政治は嫌いですから、この本が出るとクビになるので、出版中止にしてください(笑)」。このように、ちょっと親しみやすいところがある人でした。

マキャベリが嫌いでも
今回は「性悪説」でいくのでは?

 実は、もう原稿も残っていない未完の作品の中身や、彼女の政治の話を思い出しながら石破氏の行動を振り返ってみると、マキャベリが嫌いでも、今回限りは「性悪説」でいくと割り切った感があることがわかります。

 石破氏はずっと安倍政権に挑戦し、徹底的に干されました。もはや派閥も解散した男が、どうしても政治家としてやりたいことをやるにはマキャベリズムを行使するしかない、そう考えるのは当然です。今回の総裁選、そして総選挙は、安倍政治の総括が目的ですから、「安倍的なものを潰すなら何をやってもいい」と石破氏は考えているはずです。

 そしてメディアこそ、この選挙の争点が国の分岐点となりうる重要性を持つことを、国民に知らせる義務があるはずです。マスコミや野党は石破首相の発言の後退を厳しく責めますが、そもそも与野党共に簡単に解決できるような課題をテーマにしていないので、これらすべての論点を実現することなどできるわけがありません。

 以上のような前提で、私は今回、石破氏が本来嫌いな「性悪説」に立つマキャベリズムで政局に対応しているのではないかと睨んでいます。それは空想だけではなく、彼に近しい吉村さんからその人間像を聞いているからこそ感じることです。