この殿様における、普段の環境から一歩外に出て、普段では絶対に口にしないものを食べるという行為は、ある意味リスクそのものです。それをお金に置き換えてみると(目黒まで狩りに出かけるというのも換算すれば高いはずです)、いつもながらの価値観や固定観念が、お金(リスクを取る行為)によって経験に昇華されたとも言えましょう。
この殿様はリスクによって、新たな味覚を獲得し、経験値を増やしたのです。
経験のためにこそ
お金を使うべき
翻って、生きたお金とは、こういう使い方を指すのではないでしょうか。
だからこそ特に若いときなどは、お金をそのように用いるべきで、いや、たくさんの世界に飛び込みたいという思いがあればあるほど、一生懸命働いてお金を稼ぐというモチベーションも上がっていくものだと確信しています。
考えてみたら、ワコールをやめて談志門下に入門した私も、毎月「上納金」というリスクを談志から背負わされた形でした。
しかし、さんざんネタにもしてきましたが、談志亡き後の私の現状を噛みしめてみると、「談志から落語にまつわることすべてを学んだ」という意味で、それは一種の“投資”となっていました。その投資のおかげで、不景気とコロナ禍を乗り越えながら、今こうして出版の世界でなんとか食いつなげて“回収”している現状であります。